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サバイバー・ソロモン  作者: オウルマン
第四章 南西大陸の聖女様
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第26話 巨躯への挑戦

 巨大な魔物、ランガートルは動き出した。陸亀をそのまま巨大化したようなこの魔物は、ソロモンとヴィクトルに興味が無いらしい。頭部を前に向けてゆっくりと前進を始めた。


 一歩踏み出すのは遅い。一歩毎に動きが止まる程、歩みは遅い。ランガートルの移動速度は非常に遅いという、リーダーからの事前情報は正しかった。


 ――それでも、ソロモンとヴィクトルは動けないでいた。攻撃か逃走か決められずに、灰色の巨躯を見上げたまま石にされたかのように固まっている。


「スケールが違いすぎる。元の世界で俺が住んでいた家よりも大きいぞ……」

 想像の枠から完全にはみ出した存在。それが今目の前で動いている。それに対して、ソロモンに取り憑いた心は石になったような体を戻していた。


「だが面白ぇ。あの魔物、俺達で狩るぞ」

 ――冒険心と好奇心が闘争心に変わった。選んだ先は狩猟という無謀な戦い。


「動きは遅い。隙だらけだ。俺がブロジヴァイネで足を斬って転倒させる。ヴィクトルは目を潰せ。左側面から仕掛けるから右側面から頭部の方へ」


 ヴィクトルは親指を立てた。ソロモンは漆黒の剣を抜いてランガートルの巨大な後ろ足へと駆ける。

 浮いた足が再び地面に付く瞬間を狙う。岩場を踏みつける際に起きる衝撃がフルグリーブ越しに伝わるが、ソロモンの動きは止まらない。


「これでダウンだ!」

 一文字に剣を振る。ブロジヴァイネからは何の手応えも伝わってこないが、確実にその刃は届いた。しかしランガートルは何事も無かったかのように歩みを止めなかった。


「チッ、もう一度だ。倒れるまで集中的に狙ってやる!」

 再び左後ろ足を攻める。素早く近づき連続で斬撃を加えていく。容赦も抵抗も無く振るわれた剣が、ランガートルに襲いかかる。


 それでも、ランガートルは歩みを止めなかった。


「なんでだ!? 剣は届いている筈だ。倒れるどころが動きが変わらないってどういうことなんだ!?」

 呆然と立ち尽くす。剣を突き刺してみたが何の反応も返ってこない。初めてのことに、思考が停止してしまう。その間にも灰色の巨躯はゆっくりと離れていく。


 ソロモンの頭が再び回り出した切欠は、ヴィクトルが肩を叩いたからだ。ヴィクトルもどうするべきか迷っていたようで、人差し指をランガートルに向けて上下させている。


「クッソ! まだだ! まだ勝負はこれからだ!」

 狩猟の熱が戻ってくる。再び闘争心が攻撃行動に駆り立てる。


 ――普通に斬るだけではダメか? 攻め方を変えよう。


 側面から斬るのでは無く、人間の体でいうと『アキレス腱』に当たる部分を狙う。外側から股の内側へ潜り込む動きで刃を入れ、規則的に揺れる尾を避けながら離れる。


「ダメか……全く効いていない。明らかにダメージになっていない」

 避けられた訳ではない。弾かれている訳ではない。斬った感触の無さと斬撃の軌道から、ブロジヴァイネの力が不調や無効化されているとは考えられない。間違いなく刃は届いている筈なのだが――。


「まさかこの魔物は――」

 今度は表面を削ぎ落とすように剣を振るう。それで答えは得た。


「単純な話だヴィクトル。この魔物、外殻がとんでもなく分厚い。ブロジヴァイネだから簡単に出来るけど、普通の武器じゃ殆ど傷が付かない堅さだぞ」


 ブロジヴァイネは簡単にスライスするが、普通のナイフを突き立ててみれば金属音と共に弾かれる。小さなカケラ一つ出てこない。むしろナイフの方が折れるか刃毀れを起こしそうな程、この外殻は堅い。


「この堅さは金属以上だな。成る程、これなら弱点が分かっていても無理だ」

 分厚い外殻が本体へ攻撃が通らなかった理由。それが分かった瞬間、ソロモンの心が昂ぶってくる。


「だがやりようはある。俺のブロジヴァイネならな」

 普通に斬っても届かないなら、外殻を削いで穴を空ける。そうすればダメージが入る。


 ランガートルの動きに注意を払いつつ、左後ろ足の切り崩しを再開。斜めに何度も刃を入れて少しずつ外殻を削っていく。


 削り落とした外殻を地面に転がしながら、動き続ける巨躯に張り付く。


「表面の色が変わった。手で触れた感触も違う。本体まで届いたか!」

 灰色の外殻に対して本体は白に近いほど薄い灰色。


「足自体が太いようだからな。斬って転倒させるのは無理そうだ。だったら――」

 漆黒の剣を慣れた手付きで逆手に持ち替え半回転させる。柄に左手を加え、剥き出しになった肌へ突き立てた。根元ギリギリまで差し込んだところで両手を離す。


「後はブロジヴァイネが失血死に追い込んでくれる」


 ――これで勝ちだ。


 その瞬間、勝利を確信した。そして、緊張の糸が完全に切断された。


 次の瞬間、ソロモンは岩場の地面に顔面を打ち付けていた。


 何が起こったのか理解できない。解ったのは何かが両足にぶつかり転倒させたという事実だけだ。


「何だ……何が……」


 体を起こそうと顔を上げたソロモンの視界が真っ暗になった。

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