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サバイバー・ソロモン  作者: オウルマン
第四章 南西大陸の聖女様
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第21話 南西大陸の事情

 ソロモンは絶望した。そして無意味に怒った。


「米が無いじゃないか!! 元の世界と同じような環境なのになんで無いんだよ!!」


 三時間、本を読み漁った結果がこれであった。


 自分の領地で作るなら米が良い。そう考えていた。しかし北方大陸には間違いなく存在していない。中央大陸にも存在が確認できない。南西大陸と南東大陸の農業関連の本なので、これに載っていなかったら存在していない可能性が高い。


 無論、呼び方が違うだけで米自体はあるという可能性も考慮している。明らかに聞いたことのない物は極力現物を見せてもらうようにしていたし、この本には実物の絵が載っている。


 ――故に、結論が間違っている可能性は低い。


「クソッ! 外海の遙か向こう、未確認の大陸に行かなきゃ米が食える可能性はゼロなのかよ! 畜生が!!」


 ソロモンは一年近く米を食べていない。本来パンよりも米派なのである。


 書庫内に響くほど叫ぶソロモンの横で、ヴィクトルは全く関係のない本を読んでいた。この場は我関せずの方針らしく、本のページから目を離そうとしない。


 まあいい。目当ての農作物は見つけた。栽培法も書き写したが、書いてあった本ごと欲しいな。後は種をどうやって調達するかだ。


 急速にクールダウン。本日の頭の切り替えは早い。


 ミレイユ夫人に聞いてみるか。もしかしたら直接売ってくれるかもしれん。


 一区切り付けたところで丁度昼食の準備ができたと使用人が呼びに来た。食堂には見慣れた料理が並んでいた。


「パスタか。ソースの匂いが良いね。やっぱりプロが作るものはレベルが高いね」

「考案者からお褒めの言葉を貰うなんて、料理人が喜ぶわね」

「さあさあ冷めない内に早く頂こうよ」


 フォークを手にしたマーケスが一番興奮しているようだ。やはり食べ物は正義である。


「では頂きます」

 両手を合わせる。いつもの作法。日本人なら何ら不思議ではない食べ物への礼儀。咎める者は誰もなく、普段通りに口へと運ぶ。


 ソロモンとベルティーナの食べ方を真似て、ミレイユ夫人とマーケスは食す。感想はどうだろうと視線を動かせば、二人共驚いた様子で手を止めていた。


「あら美味しい」

「うん。こういうのは初めてだけど食感もいいねぇ」

「このソースも美味しいですけど、ソースで味を変えれば毎日食べても飽きないんですよ」


 その場の全員から最高の評価を頂いた。


「いやぁやっぱりプロだね。レシピを見ただけで俺が作ったヤツより美味しい物を作っちゃうんだからね」


 本人は正直に感想を言い一緒に出されたスープを飲み込む。実はスープも美味い。


 夕食もソロモンが渡したレシピから出されるという話になった。料理人にもプレッシャーがかかるのではないかと聞いたが、彼等はかえってやる気になっているようだ。自分達の知らない料理に興味が湧くのは食べる側だけではない。


 食事が終わった後ソロモンはミレイユ夫人に相談をするべく、一枚の紙を提出した。ミレイユ夫人はそれを受け取り目を通し始める。


「領地で育てる農作物の候補なんですけど、種を調達したいのですが如何でしょう? お金はある程度持っています」

「そうねぇ……」


 ミレイユ夫人は横から覗き込むマーケスに、見やすい角度に手を傾ける。ベルティーナは食後の紅茶を片手に黙っていて、口を挟む気はないようだ。


 息が合っている夫婦。何となく、そう感じた。


 ――俺の両親はどうだっただろう?


 俺の両親は共働きだ。母親は法律事務所で働いているが、弁護士ではなく電話応対や書類整理等の事務仕事をしている。朝出勤して夕方帰って来る日勤者だ。

 父親はシステムエンジニア。その辺の事には疎いから仕事の内容は良く知らないが、管理とかメンテナンスとか言っていた気がする。知っている事といえば、夜に出社して朝方に帰って来る夜勤者だって事か。


 昼に働く母と夜に働く父。一緒に居ることなんて普段はあんまり無かったと思う。仲が悪いのかと昔聞いたことがあるが、両親の回答は全く同じ。


『いや、すごく仲良しだよ。じゃなきゃ結婚なんてしない』

 夫婦喧嘩は見たことない。父の愚痴を言う母を見たことないし、母の愚痴を言う父を見たこともない。


『定樹も彼女が出来て、結婚をして、子供を儲けたら分かる時が来るかもね』

 両親はそういった。勿論真意は分からない。少なくとも今の自分には。


 なんで、両親の事を今思い出すのだろう? 一年近く離れて、今更故郷が恋しくなったのか? 生きて勝者として帰る為に振り切った心の弱さが、追い付いてきたのか。


 頭の中が別の事に向いている間に、ミレイユ夫人とマーケスは話を纏めたようだ。


「ソロモン君、当家ではこれらを用意することは難しい」

「そうなんですか……。農作物の種って結構貴重な物だからですかね?」

「いいえ、違うわ」


 ミレイユ夫人は紅茶のお替わりを給仕係に要求した。彼女に続いてマーケスもお替わりだ。ソロモンにも別の給仕係が勧めるが冷たい水を頼んだ。


「この南西大陸に流通する農作物は、一部の者達の独占状態なのよ。その一部に当家も含まれているわ」

「つまり大農園を持っている農園主の一族だね。ここで知って欲しいのは、その農園主は別々の農作物を作っているって事。別に盟約が有るわけではないんだけど、その方が無用なシェア争いをしなくて済むって考えているんだ」

「確かにその方がお互い利益になりそうですね」


 暗黙の了解というやつか。


「それでね、このリストにある作物は全て当家で栽培していないのよ。もし栽培している作物なら種を分けても良かったんだけど、他家から入手するのは大変よ?」

「自分達の作物が余所で大量に栽培されると、売れなくなったり値崩れを起こしたりして不利益。そう考えているからね」

「考えは理解できます」


 自分の利益を守ろうとするのは当然の事だ。


「大農園を持つ当家なら、仲介役だったとしても十中八九警戒されて話にならないと思うわ。特に当家は所有する土地も広大で、農業に精通しているから種や苗があれば大量に栽培できる。流通ルートも持っているし、法律的にも問題が無いしね」


 ソロモンは黒髪を掻いた。物事は一から十まで、最初から終わりまで、万事上手くいくとは限らない。名家と呼ばれるからこそ手が出せないということもある。


「この国の農業事情は理解しました」

 考えを纏める為に口を閉じる。


「俺は北方大陸の人間です。遠方なのでシェアを奪われるとは向こうも考えないでしょう。直接出向いて交渉をします」


 お世話になっている身だ。不利益になるようなことは出来ない。

 この場は解散となり、ソロモンは再び書庫へと向かう。まだ調べ物が終わっていない。


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