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サバイバー・ソロモン  作者: オウルマン
第四章 南西大陸の聖女様
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第20話 大農園への道

 次の日の朝、ソロモンは目を覚ました。が、起き上がれないでいた。半覚醒状態でぼけっと仰向けになりベッドの上で朝日を浴びていた。


 ――寝具一式が最強過ぎて抜け出せないのだ。


 しかしそれに挑むのは最高の相棒ヴィクトル。ソロモンを軽く揺らしても効果が無いとみるや、タオルケットを強引に引き剥がしに掛かる。情けも容赦も無い。


 そして強めに揺らす。それでも起き上がらない主に更なる攻撃を敢行する。


 ベッドのすぐ横に小さなテーブルがあり、その上に剣が一本置かれている。漆黒の剣身を、シンプルで安そうな鞘の中で眠らせている吸血剣ブロジヴァイネだ。


 当然この魔剣を抜いて斬り掛かる訳では無い。鞘に自分の籠手を打ち付けて不快な金属音を鳴らす。

 耳元でガンガン鳴らせば、十数秒でソロモンは起き上がった。ヴィクトルとブロジヴァイネの勝利である。


「何だよぉ……、えっ朝飯の時間か?」

 ヴィクトルは口を大きく開けて、何かを口の中に入れる仕草をした。彼は朝食の準備ができたという報せを使用人から受けて攻め込んできたのである。


「いくいく~」

 目をこすりながらベッドから降りる。ヴィクトルの手からブロジヴァイネを受け取り、適当に身支度をしてから部屋を出た。魔装弓や防具を置きっぱなしにしても、この魔剣だけは常に持ち歩いている。もう習慣になっているのだ。


 ちなみにヴィクトルは槍と盾を部屋に置き、素顔を晒してソロモンの横を歩いている。すれ違う使用人が全員驚いた様子も無く頭を垂れる辺り、教育はしっかりと行き届いているようだ。


「おはようございますソロモン様」

「お~ベルティーナさん、おはようございます~」


 完全に気の抜けた挨拶を返すが、彼女は全く気にする様子が無く優しく微笑んだ。自分の寝癖に気が付かないようなソロモンに対して、身嗜みはきちんとしている。


 長い金髪をしっかりと櫛で梳かして自然に垂らし、胸の膨らみと腰のくびれがハッキリと分かるワンピースを自然に着こなしていた。名家の御令嬢は、実家だからといってみっともない姿で歩き回ることはしないらしい。


「ボタン、掛け違ってますよ?」

「えっ、あ……ほんとだ。ありがとう」


 ダラダラとボタンを留め直す。ヴィクトルはこういう所の気配りが出来ない。


「朝食に向かうところですよね? 一緒に参りましょう」

「そうしよう。広すぎて迷いそうだからね」

「ソロモン様の城よりは狭いですよ」


 半ば冗談なのにベルティーナは真面目に返す。ソロモンは思わず笑う。


「昨晩はよく眠れましたか?」

「よく眠れたよ。寝心地が最高でさ。だらけてたらヴィクトルが寝心地最高なベッドから俺を追い立てたんだぜ」

「ふふっ、よく眠れたようで良かったです」


 人間にとってはかなり重要なことだが、睡眠を必要としない――別の見方をすれば眠ることが出来ない――不死者の相棒は、眠り心地の善し悪しなんて全く関係が無いのだろう。


 食堂にはミレイユ夫人とマーケスが先に来ていた。挨拶を交わし給仕係から配膳された料理を頬張る。

 食事が済んだところで、ソロモンは紙を取り出した。


「これ、俺が城で出していた料理のレシピ。ベルティーナさんから特に評判が良かったものをピックアップしておいたんだ。素人のレシピだから、プロの料理人なら簡単に再現できるでしょ」

「ベルテが毎日楽しみだったっていう料理ね。折角ですからお昼に頂きましょう」

「そうだね。楽しみだよ」


 ミレイユ夫人とマーケスの食い付きはいい。食い物は正義だ。


「腹ごしらえが済んだことだし、早速書庫で調べ物をさせてもらいますよ」

「ええどうぞ。気の済むまで利用してね」


 食堂を出たら一旦部屋に戻り、ペンと手帳を取る。書庫の場所は聞いていたが途中で方向が分からなくなり、偶々近くを通った使用人に尋ねた。嫌な顔一つせずに丁寧に教えてもらい、目的の書庫へ辿り着いた。


 屋敷の書庫はソロモン城の図書室よりも蔵書の数が少ないが、キッチリと整理されている。定期的に使用人が清掃に来ているようで、埃っぽさが全く無い。ほぼ放置状態のソロモン城とは大違いである。


「目当ての本は……」

 規則的に並んだ本棚の壁。背表紙のタイトルで目的の本を探す。本の厚さは違っても表紙の縦横の長さは全て同じ。少し離れて見てみれば、規則的な図形を描くように並んでいるのが分かる。本棚の切れ目や端に、仕舞われている本の種類が書かれた木の板が有るのを見つけ足を止める。


「歴史、小説、地理……学術書の棚かな」


 当たりをつけて探索を再開。

 学術書といっても、細かく分野毎に分かれているらしいな。これは魔物図鑑か、この辺は魔物に関する内容で纏めているな。


 ――魔物図鑑。つい手に取ってページを開いてしまった。


 魔物と人間以外生物の境界線は曖昧だ。特に昆虫型の魔物に関しては、魔物学者と昆虫学者の争いの種になっている。魔物といっても千差万別で、小さな村一つ一日で壊滅させる程の力を持ったヤツもいれば、人畜無害なのもいる。単純に大きさで決めているとかそういうわけではない。


 結局は魔物の生息域に近い所に住んでいる人間の捉え方というか、認識の問題というのが一般的な考えだ。


「昆虫型の魔物といっても、バッタだのカマキリだののデカいヤツとかだな。俺の領地の周りにはあんまり見かけねぇんだよなぁ」


 魔物も生き物だ。生息する場所というのがおおよそ決まっている。基本的に昆虫型は樹海の奥の方を好む。不用意に入り込まなければ遭遇率はかなり低い。


 開拓などで森林伐採をするような時には要注意。耐久力は全体的に低めだが、猛毒を持つ個体も多い。領地近くの森には手を出さないことにしているので、ソロモンは特に気にはしていない。


「厄介なのはこういうタイプの魔物だよな」

 ヴィクトルにも見せる。描かれているのは四足歩行の魔物、動物型と呼ばれる種類だ。


 このタイプは平地に住んでいて行動範囲が広い種が多い。人間にとって暮らしやすい場所と生息域が被っているのだ。こういうタイプの魔物は、輸送路によく出没して運送業者と商人の悩みの種になっている。


 もっとも、狩った魔物の肉を夕飯のおかずにしたり解体した体の一部を売って小遣い稼ぎをしたりと、人間側も幾らかは恩恵を受けている。


 おっと、目的は魔物研究じゃなくて農作物だ。


 魔物図鑑を戻す。五分位で目当ての本を発見した。タイトルは『農家の入門書』だ。他にも何冊か農業関連の本を棚から取り出し、書庫の一角にある机に座る。


 俺の領地は平坦な土地。土自体は農業と相性が悪いわけではないし、肥料を使うという方法もある。農園を作る事は可能な筈だ。

 手帳を捲る。必要は情報は概ね書き込んである。


 さて、どれがいい? どの農作物なら上手くいく? どれなら稼げて領民を食わせていけるんだ?


 本に問いかけながら厚みのある本を開いた。


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