幕間
そこは酒の臭いが漂う薄暗い場所。酒瓶を開けては空にとしているのは、見た目は若い男だ。銀色の髪が僅かな灯りに照らされている。
その前に居るのは、一言で表現すると『異形の姿をした生き物』だ。
前後に三本、左右に二本の大型爪を生やした両足。二本足で立っているがやや前傾姿勢で身長は七メートルと少し。その腕は人の腕より太く、手には大きくて鋭い爪が六本生えている。六本指の手の手首に当たる部分に、成人男性よりも二回り以上大きい人間の手――勿論五本指――がある。酒が注がれているジョッキを持っているのは左側の人間の手だ。
頭部も当然人間とはかけ離れている。牙が無い深紅で円形の平べったい顔。白くて横に長い楕円形の中心に球体の目。右目は碧眼、左目が黄色。鼻に当たる部分には目立たない黒点。口に当たる部分には見かけ上何も無いが、口はあるようで酒が入ったジョッキを近づけると穴が開く。
角が四本、額を挟んで二本ずつ。両端は白色で他の二本は黒い。円錐や螺旋ではなく、平らな板のような形状をしている。
人ならざる姿をした存在と銀髪の男は、それが当たり前のように酒盛りをしているのだ。
銀髪の男は上機嫌で異形の存在よりも大量の酒を流し込んでいる。
「いやぁ面白くなってきたなぁ、異世界サバイバルゲームがさ。ケライゲア大陸に行ってきたけどよぉ、プレイヤー同士がバッチバチにやり合ってててさ。暫く勝敗が付きそうになかったぜぇ。ノルディゴ大陸だと何やら裏でコソコソ動いてるプレイヤーが居たな。おめーが気に入らねぇって言った、カシェイアのプレイヤーだよ」
「相変わらず楽しそうでいいな、お前のそういう所が羨ましい」
異形の存在は低い男の声。表情が無いものの、その声には機嫌が良いと判断できる感じがあった。
「オレ達はよ、せ~っかく時間があってこの世界の何処へだって行けるんだぜ? 楽しまなきゃダメだよ。この酒だってオレが世界各地から買い集めてきたヤツだしさ。おめーは引きこもりすぎなんだよな。今は魔神ちゃんが留守番してくれるんだから、もっと外へ行こうぜ~」
魔神ちゃんと呼ばれたのは少し離れた所で背もたれの無い椅子に座っていた。全身を赤黒い鎧で包み、身長は二メートル。銀髪の男よりも頭一つ分背が高い。ハルバードを抱えるような形で持ち、背中には金属の箱と大剣。近くには大盾が一つと大量の手斧や槍、剣、棍棒、大鉈、フレイル等の様々な武器が大量に転がっている。
顔には異形の存在に若干似せた仮面を貼り付け、黙って入り口――もしくは出口――の方を凝視している。酒盛りには一欠片の興味すら無いようだ。
「偶に人間の前に顔出してみろよ。人助けはマジお勧めだぞ。ちょいちょいやってるとリスペクトしてもらえるからな。この酒を買う金も人助けして稼いだ金で買ってるし」
陽気に笑いながら次のコルク栓を開け、中身を自分のグラスに注ぐ。異形の存在にも瓶を向ければ、空のジョッキを差し出してくる。
「矢か攻撃魔法が飛んできそうだが」
表情の無い顔にジョッキに口を付ける。
「引き籠もってるからそう思われんだよ」
銀髪の男はゲラゲラと笑う。
「そうだ、話は変わるがな。すげぇ事が起きてるんだぜ。オレの子孫に作らせた剣の事覚えてるか?」
「あの悪趣味な剣のことだろう? 天命を廻る剣とかなんとか言ってた」
「そうそう、対ブリンガランの聖女用に作ったヤツ。正確には別の目的で作っていた『試作品』を再利用して作った剣なんだけどさ」
銀髪の男は目当ての宝物を見つけて喜んでいるような顔で、
「その内の一本が今誰に手にあると思う? オレのプレイヤーを脱落させたおめーのプレイヤーだよ」
「ああ、確か『ビーストトランス』を『ソロモンズファミリア』で破ったっていうあの少年か……。不思議な縁があるものだな」
「だよなぁ。あの時作った剣は全て普通じゃない。数奇な運命を辿ると確信していた。作った職人は『天命を廻る』と表現したがな。あの剣だけはオレでさえ気配を感じ取れねぇんだよ。当然ブリンガランもブリンガランの聖女も探知できねぇ、所在不明の剣。偶然見つけたが、まさかおめーのプレイヤーの腰にぶら下がってるとは思わなかったぜ。しかも今居るのが南西大陸だし、ブリンガランの聖女も南西大陸に来ているんだ。これはもしかするとオレとブリンガランの賭けが決着するかもしれないぞ」
銀髪の男は魔神ちゃんを指差して、
「なぁ留守番いるんだし一緒に見に行こうぜ~」
「そうだな……そちらの争いに首を突っ込む気は無いし、異世界サバイバルゲーム自体にたいして興味が無いが……。ま、クジ引きだったとはいえ我のプレイヤーとなった少年がそういう人相か一度見てみるのもいいか」
酒瓶が全て空になった後、銀髪の男と異形の存在は外へ出た。太陽が顔を見せたばかりの空の下、鬱蒼と茂る深い深い森の向こうへ二人は歩き始めた。




