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サバイバー・ソロモン  作者: オウルマン
第四章 南西大陸の聖女様
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第19話 投資する者

 湯上がりに果物のジュースをタップリと流し込んでご機嫌なソロモン。部屋に戻った直後にベッドへ身を投げ出す。


 感想はたった一つ。最高だった。


 見えないところに溜まっていた旅の疲れからか、それとも満腹感と幸福感の合わせ技か、心地良い睡魔がゆっくりと近づいて来る。


 ――他にも近づいてくるものが居た。それは部屋の扉を叩いた。


 誰だ? 使用人かな?


 体をゆっくりと起こし返事をした後、ドアまで進む。


「休み中ごめんなさい。少しだけ話がしたかったのだけど。明日の方がいいかしら?」


 ミレイユ夫人だった。普段着用のワンピースでドアの前に立っていた。


「構いませんよ。どうぞ」


 部屋に招き入れる。テーブルを挟んで二対のソファーに座り、向かい合わせになる。

 淀みなく流れるように座った彼女は、背もたれに体を預けてお腹の所で手を組んだ。


「ありがとう。疲れているだろうから、本題に入るわね」


 ミレイユ夫人は少し間を置いてから、

「ソロモン君、貴方がここに来た目的は何かしら? 少なくとも私の妹に下心があるからという訳ではないでしょうね。愛しい人を見る目ではなかったから」


 穏やかな口調と雰囲気のまま問う。ソロモンは、眠気でフワフワ浮かんでいるような頭の回転数を少しだけ上げる。


 その通りだ。――洞察力か。


「探し人が一人、探し物が二つ」

「詳しく聞かせて。協力できる事があるかもしれないわ」


 短い回答に間髪入れずに提案をする。ソロモンと違ってミレイユ夫人の頭の回転は速い。


「探し人はシナノガワという女医です。どんな病も怪我も治す特殊能力を持っていると聞きました」

「知っているわ。両親とお抱えの医師が彼女に会いに行っているのよ。高度な医術を持っているそうで、治療と勉強を兼ねてね」


 能力で人を助けてるだけあって有名人だな。――有名人か。


「治して欲しい人が居るの?」

「いや……そういう訳じゃない。会ってそいつと話さないと、俺の運命は進まないんだ」


 少しの静寂の後、

「好意ではない……敵意に近い。そんな目をしているわ。そして、何か迷っている」


「困ったな。ミレイユ夫人は何でもお見通しですか?」

「いえ、他人と話す時は相手の目を見るようにしているだけよ」


 成る程、まぁ納得できない理由ではないな。


「居場所は聞いた。後で会いに行く予定です」

「そう。それなら協力しなくてもいいわね。探し物の方は?」


「一つは作物の種か苗。もう一つは変質材」

「理由を窺っても?」


 ソロモンは一度頷いてから、

「夕食の時に俺が領地を持ってる話はしましたね? そこに農園を作ろうと考えているんです。天候の影響を受けて収穫量が落ちるかもしれませんが、鉱物資源なんかと違って毎年収入に繋がりますから。食べられるものなら需要が無くなる事はそうないですしね。他にも畜産を予定しています」


 ミレイユ夫人は表情を変えずにソロモンの目を見ている。


「変質材は新しい魔装具を造る為です。そういう研究に手を貸しているもので」

「わざわざ遠方まで来たのは何故? 北方大陸でも手に入るでしょうに」

「単純な事で、別の大陸にはこっちの大陸には無い物があると考えたんです。特に農作物は俺の領地経営の要にする予定なのでね。別大陸のものなら、既存の市場に売り出しても買い手が付きやすいだろう、という考えです」


 ベルティーナとミレイユ夫人には大変失礼だが、これが今回の旅の本命だ。


 元の世界ではかつて大航海時代と呼ばれた話、遠方へと船を出し別の土地から珍しい物を買い付けて故郷で売って、莫大な財産を築いた者達がいた。それを参考にしたのが今回の旅だ。


 悪い側面は勿論あったしそれを理解している。当然狙いは人ではなく物だ。領民を余所から買い付けるような事はしない。


 ――そもそも領民を集める以前の段階である。


「そう……。流石は帝国貴族様。その若さで称号を与えられる理由は有るようね」


 待った。今この人帝国貴族と言ったか……。


 睨むように表情を変えたソロモンにミレイユ夫人はすかさず、

「確かな筋から聞いているわ。帝国貴族の話は広めていないから安心して」


 ソロモンは言葉に困って黙り込んだ。


「貴方の目的の為には時間が必要ね。この屋敷を拠点にして活動してもいいわよ。書庫も自由に使っても構わないわ」

「……良いんですか?」

「勿論よ。私、将来性の有りそうな人に投資するの好きなの」


 将来性の有りそうな人、そう思われているのか俺は。であれば遠慮無くその投資を受け取ることにしよう。


「お世話になります。宜しくお願いします」

 頭を下げるソロモンにミレイユ夫人は満足そうに笑った。


「ええ、頑張って。それでは私はお暇するわね。貴方の部屋に長居していると、嫉妬しちゃう人がいるから」


 冗談なのか本当なのか分からない事を言って、ミレイユ夫人は部屋を後にした。


 折角の機会だ。生かせるかどうかは俺次第。でも今日はもう寝よう。本番は明日からだ。


 フカフカのベッド、絶妙の柔らかさを持った枕にフワフワのタオルケット。

 睡魔は過去最高の速さでソロモンの意識を連れていった。

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