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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

醜い生き物

作者: 山本輔広

 下校途中、とても醜い得体のしれない生物に出会った。

雨の中、脂肪の塊のような皺の寄った肉の塊が蠢いている。

ボーリング玉ほどの大きさのそれは気持ち程度の四肢が生えていて、左右非対称な大きさの目があった。


 見たことのない生物。

近づいてみれば洗ってない犬のような臭いが鼻につく。


「……」


 生き物は無言でこちらを見ている。


「気持ち悪……」


 ただ見たことのない生き物は興味がそそられる。

スマートフォンで一枚だけ写真を撮ると、私はその場から離れた。


 写真をSNSにアップしたところ、100件を超えるいいねと私と同じような気持ちを抱いたリプライが届いた。


『マジで気持ち悪すぎる』


『なんだこの醜い生き物』


『病気持ってそう』


 皆気持ちは私と同じようだ。

 でも、ここまでいいねとコメントをもらえたのは久しぶりで、なんだか嬉しくなってしまう。

 あの気持ち悪い生き物はなんだったのだろうか。

明日もまた同じ場所にいるだろうか?


 翌日の登校時にはいなかったが、昨日と同じ時間帯の下校時刻、その生き物は姿を見せた。

今日は雨降りでなかったが、晴れていたせいかその生き物の皮膚はカピカピに乾いている。

白い粉が全身から噴いていて、まるでフケだらけ。

やっぱり気持ちが悪い。


 試しに落ちていた石を投げつけてみた。


「ぐももももも……」


 生き物がこもったような鳴き声をあげる。

聞いたとこもない鳴き声だ。

 もう一度石を投げつけてみると、やっぱり同じ声をあげる。

逃げる様子はない。けれど、左右非対称な目が潤んでこちらを見ている。

嗜虐心を煽るような視線と鳴き声に、私は石を投げ続けた。

そういったことをしながら、またスマートフォンで写真を撮る。今度は動画も取った。


 帰宅して、またSNSにあげる。


『なにこれ、鳴き声? きもすぎる』


『見た目も声も終わった生き物』


『これは石投げたくなるわ』


『もっとやってみて』


 反応は以前よりも良かった。

いいねもリプライもかなり反応がある。

 私の中で、次はこの生き物に何をしてやろうなんて思考が始まっていた。

明日もあの生き物に出会ったら、何をしてやろう。どんな写真を撮ろう、動画を撮ろうって。


 その翌日も、週が変わっても、月が変わっても、その生き物は同じ時間帯にいつもの場所にいた。

私の行動は次第にエスカレートしていく。

石をぶつけるだけでなく、時には消臭スプレーをかけてみたり、傘でつついたり、蹴飛ばしてみたり。

 そのたびにSNSにあげて、いいねやコメントをもらえた。

ただ、周りからの反応がいまいちなときもあって、そういったときはより過激なことをしてやろうと思い、翌日には実行していた。


「ぐ……もぉ、ももも」


 あるとき、生き物は気持ち程度の手を伸ばした。

小さな手。脂肪がつきすぎて丸みを帯びた手が私へと延びる。

傷ついた手が伸びると、余計に気持ち悪く見える。

その表情ときたら、目から涙を流している。

まるで救いを求めているようにも見える。

 でも、それは人間ならの話。

こんな醜い生き物がこんな命乞いのようなことをするだろうか。

もし、私がこの生き物だったら確実に自殺すると思える。


 それでも生き物は手を伸ばす。

すがるような、拒否するような。


 でも、私の頭にはもう嗜虐心とSNSのことしか頭にはなかった。

今日はとっておきのものを用意した。

大福だ。

もちろんただの大福ではなく、中には殺虫剤を存分に入れ込んである。


 しゃがみこんで、生き物のの前に殺虫剤入りの大福を見せつける。

手を伸ばしていた生き物は最初警戒したが、顔を近づけると大福の匂いを嗅ぐ。


 いいからさっさと食べろと思う。

生き物は一度こちらをチラリと見る。じれったい私は生き物を睨みつけて視線で指示する。


 もちょり……。


 食べた。

生き物は食べたと思うと、すぐにでも嘔吐した。

しかし、それでも少しは飲み込んだのか次第に青ざめた顔になると、倒れ込んで陸にあげられた魚のように跳ねている。

跳ねている様子をすぐに動画に撮った。

 これはバズる。今までで最高に面白い動画が撮れる。

 撮影を終えたことろには、生き物は動かなくなっていた。

死んでしまったのだろうか、口からは血交じりの吐瀉物が漏れていて、四肢は血流をなくしたように白くなっている。

いつもの何倍も気持ち悪かった。

でも、それも素材として使える気がした。

デスマスクとして、一枚写真に撮る。

これをSNSにあげたら、どれくらいのいいねがつくだろうか?


 帰宅してから、SNSに動画と写真をあげた。

どれほどの反応がくるのかを楽しみにしながら。私は画像フォルダを開いた。

 今まで撮ってきた写真を見返そうと思ったのだ。

下へ下へと一気にスクロールして、写真を見返す。


 一番最初に出会った姿。醜い生き物。これはもうバケモノといってもいいだろう。

しかし、異変に気付いた。

写真の一枚一枚を辿っているうちに、その生き物の姿形が変わっているのだ。

記憶にあった姿とは違う姿へと、生き物は変化している。


「あれ、なんだこれ?」


 生き物の姿は徐々に人に近づいていく。

一日経つごとに、一週間経つごとに、一か月経つごとに。


「そんな」


 スライドしていくと生き物はやがて、人の姿へと変化していく。

手が、足が、顔が、姿が。


 何故、何故、何故。


 怖くなったが、スライドする指は止められなかった。

今画面に映っているのは3日前の写真だ。

蹴られている姿はもうほぼ人間である。


 しゅっ。


 スライドして現れたのは、私と同じ制服をきた女子生徒だった。

女子生徒は涙を流しながら、こちらに赦しを乞うような視線を向けている。

そんな女子生徒に、私は笑いながら消臭スプレーをかけている。


『お願い、やめて』


 女子生徒の声がする。


『アハハハ、マジで声も見た目も気持ち悪いわ』


『どうして、そんなことをするの?』


 笑い声。


『痛いよ』


 笑い声。


『苦しいよ』


 笑い声。


――ウソだ!



 思わず叫び立ち上がる。

こんな動画は撮った記憶がない。これじゃぁまるで私がいじめをしているみたいじゃないか。

私がしていたのはただ醜い生き物がいたから、それと遊んでいただけ。


 一番最新の。さっき撮った写真はどうなっているのだろう。


 深呼吸をして、椅子に腰を下ろす。

震える手でスマートフォンをスライドさせる。


 そこには傷をつけまくったあげく、口から吐瀉物を履きながら死んでいる女の子がいた。


「嘘! 違う違う違う違う!」


 違う、私は醜い生き物の写真を撮っていたんだ。こんな女の子は知らない。

そうだ、SNS。SNSにあげた写真や動画は――……


 SNSを開いて確認する。

そこにはやはり女の子の写真と動画しかない。

ただ、それでもいいねやリプライはそのまま同じ形でそこにあった。

私が見たあの醜い生き物は。


 頭がおかしくなってしまったのだろうか。

私は今まで何をしていたのだろうか。

急激に、強烈なけだるさと四肢の痺れを感じた。

頭を髪むしればごっそりと毛が落ちる。


 手に絡みついた長い毛。

おまけに白いフケまで大量についている。

そんな。おかしい。ちゃんと毎日シャンプーもトリートメントもしているのに。


 姿を確認したくて、洗面所へと駆け出す。

四肢が痛くてだるい。目が霞んで見える。


「あ……」


 洗面所の鏡に映る姿。

見覚えのある姿。

脂肪の塊のような皮膚に、左右非対称な目。


「そんな、嘘よ。嘘よ!」


 これじゃぁ、まるで私が。



◇ ◇ ◇



「うわ、気持ち悪」


 私が私でなくなった。

 家にはいられなくなって、ひたすらにあてもなく歩いた。

 

 通学路を歩く男子高生が、私を見つけていつか聞いた言葉を口にする。


「なんだこいつきもっ」


 見上げた男子高生は、そんな言葉を呟きながらも嗜虐心に染まったような嫌な笑いを浮かべている。


『ぐ、ぐももも……』


 助けて、と言おうとしてそんな声が出た。

救いを求めて手を伸ばす。


「うわ、声までキモイ」


 男子高生がスマートフォンを取り出し、カシャリと音がなる。

その写真はきっとSNSにあげるのだろうな。


 なら、私はこの先どうなるのだろうか。

今までしてきたことが脳裏をよぎる。



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― 新着の感想 ―
[良い点] いやぁ。 本当に怖いのが何かを教えてくれますね。 [一言] うまいです。 引き込まれるように読んでしまいました。
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