余命三兆億万文字
余命3000文字 村崎羯諦さん
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寿命300文字 志雄崎あおいさん
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余命30文字 Gyo¥0-さん
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が面白かったので書きたくなった話です
「大変申し上げにくいのですが、あなたの寿命はきっかり三兆億万文字です」
最近にわかに流行りだした奇病、文字数寿命に、どうやらオレもかかってしまったらしい。でも待ってくれ。儚くも人生を全うした三百文字の人、純文学として激しく散っていった三千文字の人、そして意味わからず死んでいった三十文字の人……オレはドキュメンタリーで見てきた。
でも、じゃあ。
「あの、待ってください。オレの残りの文字数をもう一度……」
医者は言った。とても陰鬱な表情で。
「きっかり、三兆億万文字。ここまでで改行を含んで三百十文字消費しました。というわけで、あと三兆億九千七百九十文字です」
その医者は計算を間違えていたが、オレは指摘せずに受け入れた。だって百文字くらい痛くも痒くも無いからだ。
「しかし先生、兆億万という頭の悪い数字は一体」
「掛け算してください」
そんなわけで、オレの寿命は残り三兆に億と万を掛けた数字になったのだ。ふざけているのか。
オレは自分の寿命を知り陰鬱な気持ちになりかけた。この時点で一体どれだけの文字数を消費したのだろうか。二千文字は行ったか。いや、確認するとまだ五百文字少しだ。全然陰鬱じゃない。
丸一日過ごしても、特に印象に残らない生活の中では文章化したって一日千文字も使わない。
そしてやっとのことで二十億文字を使って過ごした数十年。まるでギャグか何かだと思っていたその数字。しかしオレの身体に衰えが来ないことに、だんだんと恐怖を覚えていた。
自分の残り文字数はアラビア数字の方がよっぽどわかりやすい。今はおよそ2,999,999,999,999,998,000,000,000文字ほど残っている。
小説投稿サイトで文字を書いても、消費するのはせいぜい1話辺り2000文字から3000文字。あまりにも減らない寿命。時間ができれば常にキーボードで「あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」と押し続ける。
早く死にたかったわけじゃない。ただ「まだ2999垓という文字数寿命が残っている」ことへの恐怖がそうさせたのだ。
死ぬのも怖い。死ねないのも怖い。数値化された寿命に怯えながら、この目は人間の営みを目にし続けた。そこで思いついたのだ。オレはこの文字数を使って、自分の目でこれらを記録する。全て色褪せない記録になる。
たくさんの事件、回避できなかった戦争、訪れる終末。オレは文字数を消費しながらそれら全てを記録する。800年の歳月で、消費した文字数はようやく89京。2999垓はまだ崩れていない。
1000年経過した。終末戦争を経て、この世界にもう人間は残されていない。オレが記録することもほとんど無くなった。極端に減った文字数の消費速度。一度は叡智に挑戦しようかとも思った。だが見出すべき真理を得て、今のオレに何の意味があるのだろう。
そしてオレは、それとは別の方向性にペンを取った。あるデザインを始めたのだ。
それは一つの物語だ。壮大な話を書き始めた。
あるところに生まれた惑星、舞台となる場所の名前は『地球』。
そこに生きる『生物』をデザインし、全員分の物語を書き起こすことにしたのだ。幸い、年表に描く事件はオレがこの世界で生きた人間の記録がしっかりまるまると残っている。
もう何年、この物語を書き続けているかわからない。この『地球史』はいよいよ2020年に突入した。現在の登場人物、約80億人を同時進行で描いている。これまでに死んだ人間を含めればおよそ1100億人を描き、動物や虫に至るまで書き連ねてきた設定は870万種、それぞれの歴史を全て描いた。
一体どれほどの文字数を使ったのかはもうわからないが。
それでもいつか来るオレの文字数の終わりまで、オレはこの地球の物語を描き続けるだろう。
愛着が湧いたこの地球史。オレはいたずら心で一つ書き込んだ。
『あなたの余命はきっかり三兆億万文字です』