第9話 魔封石
新たな同行者を連れ、ダンジョンを進むルイシャ一行。
その1番後ろをついて行く冒険者3人組。彼らはルイシャ達に聞こえないようにコソコソと話していた。
「やったなリーダー! まさかこんなにあっさりついて行けるとはな!」
「ふふふ、正に俺の読み通り。子どもを言いくるめるなど俺にかかれば朝飯前よ!」
そう言って「くっくっくっくっ」と静かに笑う3人組のリーダー「マクス」。
彼らは実は何日も前から遺跡の前で隠れながら封印が解かれるのを待っていたのだ。
そこに偶然現れたのがルイシャ達。
他の冒険者達を瞬殺しただけでなく封印まで解いたルイシャ達を3人組は見逃さなかった。
「坊主達には悪いがこの遺跡のお宝は俺たち『ジャッカル』がいただく。せいぜい俺たちの役に立ってくれよ……!」
彼ら3人組パーティ『ジャッカル』は強いパーティでは無い。
しかし人に取り入るのが上手いので、こうして強い者を利用して漁夫の利を得ることを得意戦術としている。
ルイシャ達は運悪くそんな彼らに狙いをつけられてしまったのだ。
もし強力な魔物が出たら押しつけて逃げてしまおう。
そんな風に考えていたジャッカルの面々だが、最初に彼らを襲ったのは思いがけないモノだった。
「……ん? 今なんか踏んじゃった」
足裏に違和感を感じたルイシャ。
不思議そうに下を見ると何やら踏んだレンガが下に凹んでいる。
そしてその下でカチリとスイッチが押されたような音が鳴る。
「なんだろう? 隠しスイッチかな?」
「ダンジョンの隠しスイッチと言ったらお宝部屋のスイッチやろか!? ほな早よ探すでえ!」
勝手にお宝部屋のスイッチと決めつけ盛り上がるカザハ。
しかし彼女の期待を裏切るようにルイシャ達の背後に何かがゴン!! と音を立てて落ちてくる。
「あれは……岩!?」
ルイシャ達の背後に落ちてきたのは2mを超す大岩。
なんとそれが勢いよくルイシャ達めがけ転がってくるではないか。
避けようにも大岩は通路と同じ幅のため横に避けることは出来ない。
「逃げろ!!」
転がってくる岩からダッシュで逃げるルイシャ達。
しかし道は下り坂。近いうちに追いつかれてしまうだろう。
走りながらシャロは後ろを必死の形相で走る冒険者達に大声で問いかける。
「あんた達! こういう時の為についてきたんでしょ!? なんとかしなさいよっ!」
「はあ! はあ! わ、分かったよ! 頼むマール!」
「えぇ!? 私ですか!? うう、やればいいんでしょやれば!」
リーダーに振られ、ジャッカルの魔法使いマールは走りながら魔法を唱える。
「火炎の矢!」
マールが放ったのは燃え盛る火の矢。
その矢は真っ直ぐに大岩に向かっていき……ぶつかる。
しかしその矢はぶつかった瞬間『パリン!』と音を立てて砕け散ってしまう。
「ええ!? 私の魔法が壊れちゃった!?」
「あの岩、魔封石だ! ちくしょうなんであんな物がここに!?」
マクスの言う魔封石とは字の如く魔法を無力化してしまう効果を持つ石のことだ。
とても貴重で目にかかることの少ない物なのだが、驚くことに今ルイシャ達を追いかけている大岩は全てがその魔封石で作られていた。
「マクスさん! 魔封石に攻略法はないんですか!?」
「へ? 魔封石の攻略法?」
ルイシャに問われ考えるマクス。
とはいえ魔封石は滅多にお目にかかれない。多くのダンジョンに入ったマクスも見かけたのは一度だけだった。
「ああ……確か前に見た魔封石の錠は強い剣士が斬ってたな。でもそいつは金等級の凄腕冒険者だった。魔封石は硬さも尋常じゃないから壊すなんて考えない方がいいぞ!」
「分かりました。壊せるんですね」
そう言うとルイシャは逃げるのをやめ、岩に向かって拳を構える。
突然の行動に慌てるジャッカルの面々。
「お、おいおい! 何やってるんだバカやろうっ!」
無謀な事をするルイシャを止めようとするジャッカルだが、シャロとアイリスが彼らを逆に引き止める。
「大丈夫よ、あいつを信じなさい」
「そうです、ルイシャ様なら心配いりません」
そう断言され、渋々引き下がる三人。
そして次の瞬間、ルイシャは気を溜めきった拳を魔封石に叩き込む。
「気功術、攻式一ノ型『隕鉄拳・岩貫』!!」
中指を尖らせ、いわゆる一本拳にした事により、貫通力を増幅させた隕鉄拳・岩貫。
その拳は巨大な魔封石に風穴を空け、粉々に砕き散らす。
「「「な……」」」
その光景に驚き口をパクパクさせるジャッカルの三人。
マクスは額に冷や汗をダバダバ流しながら呟く。
「と、とんでもない奴について来てしまった……」
その呟きに、残る二人はコクコクと頷くのだった。