第6話 忘却
ルイシャ達によって気絶させられた20名ほどの冒険者達。
彼らはルイシャ達の手によって一列に並べられていた。
ルイシャはそのうちの一人のもとにかがみ込むと、冒険者の頭を挟む様に両手をあて始める。
その様子を見たカザハはこれからルイシャが何を始めるのか気になり問いかける。
「ルイシャはん、言われた通りこいつらを並べたんはええけど、いったいどないするつもりなんや? 目ぇ覚ます前にとっととダンジョン中入った方がええとちゃうんか?」
「うーん、それでもいいんだけど念には念を入れて記憶をいじって僕たちのことを忘れてもらおうと思うんだ」
「はー、なるほどなぁ……ってなんやて!? 記憶をいじるやって!? そんなん出来るんか!?」
ルイシャの言葉に驚くカザハ。
そんな効果の魔法聞いたことがないから当然の反応だ。
「それは精神操作系の魔法なんか?」
「ううん。これは電気系統の魔法なんだ」
「で、電気ぃ? それが記憶となんの関係があるん?」
不思議そうに聞くカザハ。
シャロ達も不思議そうにして二人の話に耳を傾ける。
「えーとね、これは師匠の受け売りなんだけど記憶っていうのは電気の信号っていうのが関係してるみたいなんだ。だから人の脳に電気を流し込めばある程度記憶を弄れるんだって」
「はえー、よう分からんけどスゴいなあ。ルイシャはんだけには悪いことできんなあ」
「はは、友達にはそんなことしないから大丈夫だよ。じゃあそろそろやってみようか」
そう言ってルイシャは両手の指を冒険者の頭部にブスリ! と差し込む。
それを見たカザハは「うへ、痛そやなあ」と顔をしかめる。
「ええと……確か電力は最小にして波長を本人に合わせて……」
ルイシャは魔王テスタロッサに教えてもらったことを思い出しながら冒険者の頭にアクセスする。
ルイシャの指先から流れる微弱な電流が脳に届き始めると、冒険者に異変が起き始める。
「あぶ、あぶぶぶぶ」
なんと冒険者は痙攣しながら意味不明な言葉を発し始める。
見るからに成功している感じではない。それを見たシャロは不安そうに尋ねる。
「ねえルイ、これ本当に大丈夫なの?」
「た、多分。僕も実際に人にやるのは初めてだから自信はないけど……」
「え、こわ。前から思ってたけどルイも結構ぶっ飛んでるわよね……」
ルイシャはその言葉を「ははは」と受け流しながら作業に集中する。
しかし電力を変えたり波長を変えたりしても思う様にいかない。少し焦ったルイシャは思い切って電力を上げることにする。
「これで……どうだ!」
思い切って強く電気を流すと、冒険者の頭からボフン! と煙が上がる。
慌てたルイシャは急いで頭をはたき煤を落とす。
すると、その冒険者はショックで「うん……ここは……?」と目を覚ます。
「こ、こんにちは」
突然の爆発に驚きながらもルイシャは平静を装いながら挨拶する。
するとその冒険者は「うん? あんたは……?」とジロジロとルイシャを観察し始める。
「ぼ、僕が何か……」
「いや、何か見覚えがある様な無いような……」
その冒険者の男はしばらくルイシャをよく観察し頭を捻った後、こう言った。
「……気のせいか。なんか見覚えある顔だと思ったんだがなあ」
それを聞いたルイシャはほっとし、目にも見えない速さの手刀でその男を再び気絶させる。
そして満面の笑みで他の仲間の方を向く。
「これなら何とかなりそうだね! 他の人達も今から同じことをやるから少し待っててね」
笑顔でそう言い放つルイシャを見たシャロ達はルイシャを怒らせるのは絶対にやめようと心に決めるのだった。