第3話 ダンジョン
王国から南東に歩いて20分ほど。
古い遺跡群の中にそのダンジョンの入り口は存在した。
もうその遺跡群は探索され尽くされていたはずなのだが、急にそのダンジョンの入り口が現れたらしい。
ルイシャたちはダンジョンに行きたがったクラスメイトを新たに加え、計5人のパーティーでダンジョンを訪れていた。
「いやあ、テンションが上がりまんなあ! いったいどんなお宝がウチらを待ってるんでしょなあ!」
テンション高くそう言うのはルイシャたちのクラスメイトの1人、「カザハ・ホマンデーナ」。
赤毛と大きな丸眼鏡が特徴的な女の子だ。
「カザハくん……だったかな? 君はずいぶん特徴的な喋り方なんだね。どこ出身なんだい?」
「ウチは生まれも育ちも『クーべ』ですよ先輩!」
「なるほど、あそこは方言が強いからねえ。それなら納得だ」
などと話しているうちに、ルイシャ、シャロ、アイリス、シオン、カザハの5人はダンジョンの入り口にたどり着く。
そこには柄の悪そうな人物が何人もたむろしていた。
「うげっ、なんなんこの人達。めっちゃイヤな感じやな」
カザハがそう言うと、周りのその人物たちはルイシャたちが来たことに気づき一斉にジロリ! とルイシャたちの方を向く。
人数にして約20人。
3、4人のグループが6つあり、その全員が武器を持っておりおよそ一般人には見えない風体をしている。
彼らのうち数名はルイシャ達を見つけるとニヤニヤしながら近づいてくる。
「おいおいこんなところにガキが何の用だ? ここら辺は治安が良くないからよう嬢ちゃん達みたいのが歩いてると悪い大人に捕まっちまうぜ?」
そう言いながら男は下卑た笑みを浮かべながら近づいてくる。
「うわ、キモ」
「同感ですね。もう少しご主人様のような可愛げを持った方がいいですよ」
シャロとアイリスは息ぴったりに野蛮そうな男を罵倒する。
年が一回りは離れている少女に罵倒された男は仲間からも「ぷぷ」と笑われてしまう。
「が、ガキが……」
仲間にまで笑われた男は恥ずかしさと怒りで顔を真っ赤にし、シャロとアイリスにゴツゴツした手を伸ばす。
二人は眉を顰めてその手を撃退しようとする……が、二人が反撃する前にルイシャがその間に割り込む。
「なんだガキ、野郎には用はねえからすっこんでな」
「そうはいきません。後ろの二人は僕の大切な人なんです」
そう恥ずかしげもなく言うルイシャに後ろの二人は顔を赤らめる。
それを見たカザハはニヤニヤしながら「かー、アツアツやなあ。火傷してまうわ」とちゃかす。
「生意気なガキだ。言っとくが俺様は冒険者だぞ?」
そう言って男は首元の冒険者タグを見せつける。
その色は銅色。下から二番目のまだまだ下級のランクだ。
しかし子供ならこれを見れば逃げ出すと男は思っていた。
しかし目の前の5人の子供は警戒すらしなかった。
「あなたが冒険者なのは分かりました。だけどそれは僕が退く理由にはなりません」
「こ、の、ガキャァ……痛い目見ないと分からないようだな!」
男は腰からナイフを抜き放ちルイシャに襲いかかる。
冒険者なだけあって手慣れた動作。しかしルイシャからしたら止まって見えるほどの速度だ。
ルイシャはその攻撃をひょいと躱すと、隙だらけになったボディに「せいっ」と前蹴りを放つ。
気功術でもないただの蹴り。しかし日々修行を重ねるルイシャの筋力は、今や気を込めなくても岩を砕くほどになっていた。
「あ、が……!!」
そんな蹴りをマトモにくらった男は顔を青くしながら地面に崩れ、ピクリともしなくなる。
「おお凄い。こりゃしばらくは動けないだろうね」
「ルイシャはんは容赦ないなあ。ま、あんな下衆男あれくらいした方がええ薬になるやろ」
その様子を見たシオンとカザハは呑気にそんなことを言う。
しかし反対に男の仲間達はルイシャ達に敵意を剥き、近づいてくる。
「おやおや、どうやら中に入る前に一悶着ありそうだ」
「そのようですね。先輩も手伝ってくれますか?」
「ふふ、知ってるだろ? 僕は楽しいことが大好きなんだ」
シオンはそう言ってバチン、とルイシャにウインクした。