第23話 努力
「う、うう……」
痛みに呻きながらコジロウは目を覚ます。
体中が余すところなく痛む。あれだけ派手に吹っ飛ばされたのだから当然だ。
特に切り落とされた右腕が……痛く、ない?
おかしい。いくら止血したとはいえこんなにも痛みを感じなくなるものか?
不思議に思ったコジロウはゆっくりと重いまぶたを開ける。
するとそこに広がっていたのは驚きの光景だった。
「ローナ! もう一回回復魔法と麻酔魔法お願い!」
「ふえ〜! もう魔力がありません〜!」
「弱音吐かない! 私の魔力を分けてあげるからっ!」
「ご主人様、輸血の準備が整いました」
「大将! なんか俺に出来ることはあるか?」
なんと自分が命を奪おうとした生徒たちが必死に自分の治療をしているではないか。
しかも嫌々といった感じではなくみんな自発的、しかも積極的にコジロウの治療に当たっている。
「な……ぜ……」
「あ! 意識が戻りましたか!」
コジロウの声に反応したのは1番近くで治療に当たっているルイシャだ。
ルイシャが治療していたのは1番重症である切断された右手だった。
「意識が戻ったところ悪いですが今から右手を繋げるので少し痛みますよ」
「へ?」
事態を飲み込めないコジロウを置き去りにして、ルイシャは切り落とした右手を切断面に押しつけると魔法を唱える。
「時間逆転!」
ルイシャが魔法を唱えると、手の断面から血管や神経がニョロニョロと伸び、腕の断面に突き刺さる。
今まで経験したことのない痛みに「うぐっ……!」と顔をしかめるコジロウ。
その間も切り落とされた手は少しずつ繋がっていく。
すると段々指先に感覚が戻り、次第に指が動くようになってくる。
その作業をしているルイシャの顔は真剣そのもの。
先ほどの戦闘で体力も魔力もかなり消費しているというのに、消費魔力の多い時間魔法を使っているためもうフラフラだ。
それを見たコジロウは心底不思議そうに尋ねる。
「なぜ……なぜ私を助ける? 私を殺すのではなかったのか?」
「ええ、少なくとも戦ってる時は僕も殺すつもりで戦ってました。でも2人とも生きて戦いを終わらすことが出来た。だったらわざわざ殺すことはないはずです」
「甘い……な。その甘さは戦場で命取りになるぞ」
「はは、僕もそう思います。でも僕だって誰彼構わず助けたりはしません。僕はあなたの切り落ちた手を見て助けようと思ったんです」
「私の、手?」
「はい、あなたの手はゴツゴツしてて、傷だらけで、そして……重い。この手は努力した人の手です。それに気づいた時思ったんです。こんな所で切り落とされるには惜しい手だなって」
そう言ってルイシャは自分の手をコジロウに見せる。
そこにあったのは自分の手とよく似た……歪で無骨な『努力した者の手』があった。
それを見たコジロウの目から一筋の涙がこぼれる。
彼は思い出してしまったのだ。王になる事を目指し過酷な修行を続けていた若い頃の自分を。
しかし才に溢れ努力家だった彼を持ってしても王の壁は越えられなかった。
その結果彼は腐り、自虐の意味も込め王を自称し始めたのだ。
「負けたよ……私の負けだ。力だけでなく心まで負けては認めざるを得まい」
そう言った彼は、その後大人しく騎士団に捕まり幽閉された。
まるで憑物が落ちたかの如く素直になった彼は、牢獄の中で再び修行を始めた。
再び夢を追いかけて……。
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