第19話 覚醒
「ぐっ……!!」
傷を押さえながら後退するルイシャ。
コジロウはそれを深追いせず余裕といった感じで悠然と構える。
その表情は勝ちを確信しており慢心しきっている。
「どうですか? 私の秘技『燕返死』の味は? 剣気を多く練り込んであるゆえよく痛むでしょう」
「剣気……なるほどさっきの技は剣気術だったんですね……」
剣気術というのは一流の剣士が使う気功の技の一種だ。
気功術と違い己の身体ではなく武器に気を流すことで、武器に様々な特性を持たせることが出来るのだ。
先ほどコジロウが使った技『燕返死』も剣気術の一つ。
剣先に気を溜め、一気に爆発させ推進力を得る。そうすることで普通ではありえない軌道の剣筋を実現することが出来る。
「左様、我が剣士人生の集大成とも言える妙技なり。貴様のような小僧っ子に見切れるわけもなし」
「……それはどうでしょうか」
むくり、と立ち上がるルイシャ。
すでに傷口は魔法で塞がれており、足取りもしっかりとしている。
斬られる前と同じ状態……ではなくその目は先ほどまでの優しい少年の目ではなかった。
「今の一撃で目が覚めました。ありがとうございます」
ルイシャは優しい少年だ。
出来ることなら誰とも争いたくなんかなかった。
でもそんな甘い考えではいつか大切な人を失ってしまう。そう頭では分かっていたのだがどうしても今まで本気で戦うことができなかった。
でも今の一撃をくらってルイシャは思い知った。
もしかしたら今の一撃をくらっていたのはシャロやユーリ、クラスメイト達といった大切な人の誰かだったかもしれない。自分が甘いばかりにこんな痛くて辛い目を大切な人に味あわせるわけにはいかない。
倒す。
なんて甘い考えじゃダメだ。
殺してでも守る。
だったら使わなくては。
「倒す」のではなく「殺す」技を。
そう決意したルイシャの目は鋭くて強い戦士の目になっていた。
その子供とは思えない戦士の瞳にコジロウは圧倒され刀を持つ手が震える。
「わ、私がこんな子供に恐怖している、だと? ありえない……そんなことあってはならないぃっ!!」
猛然と刀を振り上げ襲いかかってくるコジロウ。
先ほどまでより速くなっている……が、ルイシャにはその動きがゆっくりに見えた。
「死ねぃ!」
超速度で振り下ろされる刀。
それを最小限の動作で避けたルイシャはそのままコジロウの鳩尾に気でコーティングした正拳を叩き込む。
メキキッ!! と音が鳴り、ルイシャの手に骨の折れる嫌な感触が伝わる。
「うごっ……!!」
肋骨をへし折られたコジロウはその場で悶絶する。
その隙を見逃さずルイシャは竜王剣を振り下ろす。
体をひねりその斬撃をかろうじて躱すコジロウだが、躱した先になんとルイシャの蹴りが先回りする。
「――――不知火・烈火!!」
気功術最速の技、不知火を更に速く鋭くした『不知火・烈火』が側頭部に命中し、コジロウは地面をバウンドしながら吹き飛ぶ。咄嗟に魔力で防御をした様だが防ぎきることは出来ず頭蓋骨にヒビが入る。
「く、くそが……」
脳を揺らされ脳震盪を起こしながらもコジロウは何とか起き上がる。
そして目の前にいる少年の顔を見て驚愕する。
「な、なんだその目は!?」
なんとルイシャの右目はまるで獰猛な爬虫類のようになっていた。
百戦錬磨のコジロウでもこんな目を見るのは初めてだった。
ルイシャは変わった自分の目を触り、そして気付く。
新たな力が自分に宿ったことを。
「この眼の名前は……『竜眼』。全てを見分ける竜王の瞳です」