第17話 実力
――――強い。
それがルイシャがコジロウと対峙して最初に抱いた感想だった。
そんな人物とこれから命をかけた戦いをする。そう考えただけで剣を持つ手は震え、汗が体中に吹き出す。
「ふふふ、どうやら命の取り合いは初めてのようだ。手が震えてますよ」
「正直今すぐにでも逃げ出したいところなんですがね。僕の後ろの人たちを守るためにもそうはいきません」
「感動的な友情ですね。しかしそこまでして私の嘘を暴く意味はあったのでしょうか? 別に私が王を騙って私腹を肥やしたところで君に関係ないでしょう」
「……確かにあなたがどんなことをしてようが関係ないです。でも……『王』を騙るのだけは許せなかった。その名は、『王』の名前はあなたが軽々しく名乗っていいものじゃないから」
ルイシャは無限牢獄でテスタロッサとリオから二人が治めていた国について色々聞いていた。
二人は途中で急に国を空けてしまったことをずっと気にしていた。
飢餓で苦しんでいる民はいないか。
無用な戦闘が行われていないか。
他の種族に攻め込まれていないか。
ルイシャはそんな本当の王の姿を見て育ってきた。
だからこそコジロウが王でないことは一目でわかったのだ。
「あなたは確かに強い。でもそれだけだ。僕の知る本当の王はもっと重い物を背負った目をしている」
「背負ってる……ですか。ふふ、確かに身分を偽って日銭を稼ぐ浅ましい我が身には相応しくない言葉ですね」
コジロウは優しげな笑みを浮かべながらも殺気の込もった剣先をルイシャに向ける。
「しかしそんな浅ましき我が身なれど一握のプライドはあります。君のような子供に舐められたままおめおめと逃げるわけにもいきますまい」
コジロウは舞踏のように美しい動作で刀を上段に構えると、重心を前に移し臨戦態勢になる。
「――――お命、頂戴致す」
その瞬間ルイシャを襲ったのは今まで感じたことのない本物の『殺気』。
思わず気を失ってしまいそうになるほどの殺気だが、ルイシャは唇を強く噛み意識を手放さなかった。
そしてルイシャは一瞬で魔力を練り魔法を構築、迫りくるコジロウ目掛け魔法を発射する。
「超位火炎ッ!!」
ルイシャが選択したのは自分が最も得意とする火炎魔法。
人を丸呑みするほど大きな火球は恐ろしいスピードでコジロウに向かって飛んでいく。
「ほう、よく練り込まれたいい魔法ですね。しかしこんな物で私を倒せるとは思わないことです」
コジロウは上段に構えた剣を横に構え直すと、まるで扇で仰ぐかのように剣を振る。
「天巌流、燕尾拭」
コジロウの振るった剣は物凄い旋風を巻き起こす。
その小さな台風に匹敵する勢いの風は火球に正面からぶつかり、なんと超位火炎をかき消してしまったのだ。
「なっ……!!」
いとも簡単に超位魔法が破られたことに流石のルイシャも驚く。
これが人間の壁を超えた者の実力。ルイシャはその力を再認識した。