第14話 偽紋
「私が王じゃない、ですって?」
ルイシャの突然の失礼な物言いに、温厚なコジロウも眉を潜める。
一瞬にして場の空気は最悪になりルイシャとコジロウはお互い鋭い視線をぶつけ合う。
一触即発の空気。
異常事態を察知したレーガスは二人の間に割って入る。
「な、なんて失礼なことを言うんだルイシャ!! すいませんコジロウさん、うちの生徒が失礼な真似を……」
そう言ってペコペコと謝るレーガス。
その額には尋常じゃない汗が浮かんでいた。
しかしそれも当然。
もし剣王であるコジロウの機嫌を損ねたとなっては何をされるか分からない。
いくら温厚と言えどコジロウは戦士。怒りに身を任せて生徒を斬る可能性がないとも言えない。
「こ、ここはなにとぞ容赦を……」
「ふふ、安心して下さい。子供相手にムキになりませんよ」
コジロウがそう言うとレーガスはホッと胸を撫で下ろす。
そしてルイシャの方を向き、肩を掴んで諭すように言う。
「何でそんなことを言うんだルイシャ? この方は今様々な場所で引っ張りだこの名高い剣士様なんだぞ?」
コジロウを必死に擁護するレーガス。
しかしルイシャの意思は変わらなかった。
「僕達の為にコジロウさんを呼んでくれたのは分かります。きっとたくさんお金も掛かったでしょうしこんなことを言うのはスゴい先生に悪いのですけど……その人はやっぱり『王』ではありません」
そう言って態度を変えないルイシャ。
するとコジロウは「やれやれ」と言いルイシャに近づく。
「あまり見せびらかすのは好きではないのですが、ここまで言われては仕方がありません」
そう言いながらコジロウは右腕の袖を少しめくり、上腕部をルイシャに見せつける。
そこにあったのは黄金色に輝く紋章『王紋』。
紛れもなくそれは王の証だった。
「どうだい? これで納得してくれたかい?」
「……確かによく出来ています。これなら『本物』を見たことない人は騙されてしまうでしょう」
ルイシャはそう言ってコジロウの王紋に手をかざすと、急に魔力をぶつける。
するとコジロウの金色に輝く王紋からバチッ! と火花があがる。
「熱ッ!」
咄嗟に腕を引くコジロウ。
突然熱くなった腕をさすり……手を離すとそこにはさっきまで金色に輝いていた王紋は無く、代わりに銀色に光る紋章があった。
それを見たレーガスは驚き、コジロウに詰め寄る。
「ど、どういうことですか!? この光の色は王紋じゃなくて将紋じゃないですか!!」
「…………」
レーガスに詰め寄られ、黙り込むコジロウ。
王紋の保持者と言う触れ込みでコジロウは様々な場所で講師をしていた。これは重大な契約違反だ。
もしバレればかなりの大事になるだろう。
しかしコジロウはそんな局面だというのに表情を崩さなかった。
「あーあ、バレてしまいましたか」
全く悪びれる様子も無くコジロウは言う。
「王紋の名前を利用しての講師ビジネス、上手く行ってたんですけどねえ。まさかこんな子供に邪魔されることになるとは」
そう言ってコジロウはルイシャを見やる。
その細い目に怒りの色は感じられないが、ルイシャはその瞳の奥に恐ろしい殺気を感じ取り鳥肌が立つ。
他の生徒とレーガスも異変を察知し身構える。
いつの間にかコジロウは生徒たちに囲まれていた。
「はあ、素直に帰してくれって言っても帰してくれない空気ですね」
「当たり前だ、王の名前を騙るのは我が王国では罪だ。大人しく捕まってもらおう」
王子ユーリがそう促すが、コジロウはそれに従わなかった。
そして……彼は静かに「はあ、仕方無いか」と言うと驚きの行動に出る。
「こうなったらしょうがないですね。全員死んでもらいますか」
そう言って懐から小刀を抜き放つと、近くにいたレーガスの腹部を深々と切りつけるのだった。