第13話 疑念
「はや……っ!」
一瞬にしてコジロウに距離を詰められたヴォルフの口からそう声が漏れる。
既にコジロウは拳を振り上げており、あとはそれを振り下ろすだけだ。
もはやこれまで。そう思ったヴォルフだったが隣から助けが入る。
「爆破!!」
バーンが呪文を唱えるとコジロウのいた空間が音を立てて爆発する。
完璧なタイミングに見えた攻撃だが、魔力の揺らぎを感じ取ったコジロウは咄嗟に飛び退き回避する。
「おっと、今のは少し危なかったかな」
「ちっ、今ので当たんねえのかよ!」
悔しがるバーン。
そんな彼の近くにヴォルフが近づき謝罪する。
「すまねえ、油断した」
「いいってことよ。それより来るぞ!」
迫りくるコジロウの前にヴォルフが立ちはだかる。
そしてバーンは逆に距離を取り魔力を練り始める。
「ほう、近距離と遠距離で別れましたか。いい判断ですね」
「へっ、戦ってる最中に喋ってっと舌噛むぞ!」
ヴォルフの容赦ない拳がコジロウに襲いかかる。
大の大人でも一撃で昏倒させるほどの威力を誇るヴォルフの攻撃。しかしそれをコジロウは片手で軽く受け流すとヴォルフの腹を蹴り飛ばす。
まるで爆発でも起きたかのような衝撃をマトモに受けたヴォルフは紙切れのように吹っ飛び、そのまま地面に倒れ動かなくなる。
それを見たバーンは目の前の人物がトンデモない化け物だと思い知る。
「だがここで引いたら男が廃る! 俺の最強魔法をくらいやがれ!」
バーンの体から物凄い魔力が放たれる。
それを感じたコジロウは打ってみろとばかりに立ち止まり魔法の完成を待つ。
「へっ、悪いな待たせて。だが待たせた分の期待には答えさせてもらうぜ! 上位広範囲爆破ァ!!」
先ほどの爆発とは比べ物にならない程の爆発がコジロウに襲いかかる。
しかし彼は避けるそぶりを見せず、それどころか右拳に力を入れ拳を振りかぶる。
「…………むんっ!!」
そしてそのまま思い切り腕を振る。
すると物凄い勢いで風が巻き起こり、バーンの爆発魔法をかき消してしまう。
「そ、そんな馬鹿な……!」
まさかの事態に愕然とするバーン。
自分のとっておきの魔法が魔法も使わずこんな方法で破られるなんて信じられなかった。
コジロウは呆然とするバーンに近くと「まだやるかい?」と聞く。
いつもだったら何度も食いつくバーンも流石に実力差を認めたのか「いや、降参だ」と負けを認める。
勝負が終わると、ワッと見学してた生徒たちがコジロウに近づいてくる。
目の前であんなすごい戦いをされたら興奮するのは当然だ。Zクラスの生徒たちは「どうやったらそんな強くなれるの?」「どんな特訓をしてるんですか?」と矢継ぎ早に質問する。
しかしそんな中でルイシャだけはコジロウに近づかず、なぜか険しい顔をしていた。
そんなルイシャに気づいたコジロウはルイシャに近づき問いかける。
「どうしたんだい? 何か気になることでもあったかい?」
ルイシャはそう問われて少し考え込み……そして意を決したように喋り始める。
「……ええ。では一つだけ質問してもいいですか?」
「ああ勿論」
穏やかな表情でルイシャにそう促すコジロウ。
しかし彼の表情はルイシャの思わぬ言葉によって凍りつくことになる。
「コジロウさん、あなたは……『王』じゃないですね?」