閑話8 その背中に追いつくために
「あーあ、結局全然回れなかったわね」
「はは、まああんなことがあればね」
騒動があった日の夜。
ルイシャとシャロはそんなことを話しながら人通りの少なくなった王国の通りを歩いていた。
エレナとの戦闘に勝ったシャロだが、そこで国の警備員が来てしまった。
はたから見たら二人とも急に街中で暴れ始めた迷惑者だ。いくら弁明しても捕まってしまうかもしれない。
そう考えた二人は一目散にその場から逃げ出した。
本気で逃げる二人を捕まえられる者などその場にはおらず、結局二人は一切祭りを回ることなく商国から逃げ出してしまったのだ。
「はあ、こりゃしばらくは商国に行けないわね」
「まあまあ。捕まらなかったからいいじゃないか」
いじけるシャロをルイシャは宥める。
しかしそれでもシャロの顔は浮かない。
「ごめんねルイ。せっかくのお祭りだったのに私のせいで台無しにしちゃって……」
「そんな、やめてよ。僕の方こそ僕の因縁に巻き込んじゃってごめん。まさかあんな所でエレナに会うなんて……」
「そんなこと気にしなくていいわ。前にルイにあいつの話を聞いてからずっと一発殴ってやりたかったのよ」
「はは、シャロらしいや。僕もあの見事な蹴りを見て気持ちが晴れたよ」
「でしょ? 私のルイを苦しめた報いよ。ざまあみやがれってのよ」
そう言って二人は笑い合う。
もうさっきまでの暗い空気は二人になかった。
「それよりさっきの『不知火』は凄かったね。いつの間にあんなに上達したの?」
「ふふん。私は日々成長してるのよ。いつか気功術もマスターして見せるわ」
「はは……シャロが言うと本当にそうなりそうだね。僕もうかうかしてられないや」
強くなることに貪欲なシャロはルイシャに気功術を習っていたのだ。
まだ教えてもらって二ヶ月ほどしか経ってないが、彼女の才能は気功術でも存分に発揮され攻式守式共に参ノ型まで使えるようになっていた。
「本当にすごいよシャロは。才能があるのに更に強くなろうとしてる。僕に才能があってもとても同じことが出来るとは思えないよ」
そう自嘲するように言うルイ。
それを見たシャロはやれやれと首を振る。
「はあ、馬鹿ねルイは。私が誰のために努力してると思ってるのよ」
「え? 自分のためじゃないの?」
「ばーか。違うわよっ」
べー、と舌を出したシャロは笑いながら走り出す。
「誰なの? 教えてよ!」 とルイシャがその後を追いながら聞くがシャロは笑うだけで教えてくれない。
「それって僕の知ってる人?」
「さーねっ、教えてあげない!」
だって恥ずかしいから。
ルイの背中を追うんじゃなくて、横に立って一緒に戦えるようになりたいからだなんて言えるわけがない!
だから内緒。
いつか胸を張ってルイの隣に立てるようになったら言うんだ。
「私に任せなさい」ってね。
世界で一番乙女な勇者はそんな気持ちを胸に隠し、明日も剣を振るう。
いつか最愛の人に、真に認めてもらうために……