閑話6 一触即発
「彼女、ですって……!!」
「そ、だから邪魔しないでくれる? あんたが誰か知らないけど私と彼のラブラブデートを邪魔する権利はないはずよ」
シャロはルイシャに甘えるように引っ付きながらエレナを煽り倒す。
ちなみにエレナを知らない、というのは嘘だ。
ルイシャが故郷の幼馴染みに酷い目に遭い逃げるように村を出てきたと言うのはシャロも知っていた。
だからこそシャロはエレナを挑発する。
ルイシャはお前のものではない。私のものだと誇示するために。
「る、ルイシャ……? 嘘よね? そんな奴と付き合ってるだなんて? ねえ、嘘だって言ってよ……ねえ……ねえ!!」
物凄い剣幕で怒鳴りつけるエレナ。
その鬼気迫る表情に思わずシャロも少したじろぐ。
トラウマのあるルイシャは内心さらに動揺するが、頑張って表情には出さなかった。
ここで折れたらまたあの地獄の日々に戻ることが分かってたから。
「嘘じゃないよ、僕は彼女と付き合ってる。君との仮初の付き合いと違って本当のお付き合いをしてる」
「なん……ですって……?」
その言葉を信じれないと言うふうにエレナは耳を塞いで頭を振り回す。
その奇行に通行人は視線を向けるが、目をつけられたらヤバそうなので誰も立ち止まりはしない。
「嘘よ! そんなのあり得ないっ!! ルイシャが私以外に心を許すわけがないっ!!」
「どうやらこいつには何を言っても無駄みたいねルイ。……だったら見せつけてやるとしましょうよ」
「え?」
なにを。とルイシャが言う間もなくシャロは行動に移す。
流れるような動作でルイシャの頭を掴んだシャロはそのままルイシャを自分の元へ引き寄せ、大衆の目の前で堂々とキスをした。
「な……!!」
突然の事態にエレナはパニックを起こす。
脳が理解を拒み、ショートする。
しかしシャロは止まらない。
まずは軽くついばむようなキスを数回した後、まるで見せびらかすように深く、愛情の込もったキスを始める。
「あ、あああぁぁっ!!!」
もはや言葉にならないエレナの声。
しかしそれでもシャロは容赦せずキスを見せびらかす。
「んむ……ぷは……」
舌を絡め、お互いの唾液を交換するその熱烈なキスに通行人も思わず顔を赤くする。
時間にしておよそ2分。十分に堪能したシャロは「ぷは」と口を離し満足そうに口元を拭う。
シャロの突然な猛烈アタックにルイシャは骨抜きにされ足に力が入らなくなってしまうが、シャロがそれを支え抱きしめる。
「ふふ、ちょっとやりすぎたかしら?」
「やりすぎだよ……」
そう言って笑い合う二人。
呆けた顔でその様子を見ていたエレナだったが、徐々に心を取り戻し怒りがふつふつと湧いてくる。
「わ、私のルイシャになにしてんだよクソ女ァッ!!」
辺りに響くエレナの怒号。
そしてエレナは背中に持っていた剣を抜き放つ。よく手入れされた80cmほどのブロードソードだ。一切の飾り気のないその剣は相手を殺すことに特化し遊び心は一切ない。
その剣の切っ先をエレナはシャロに向ける。
抜刀したことにより周りの人たちは悲鳴をあげ逃げ惑う。
しかし剣先を向けられたシャロは落ち着いていた。
「ようやくやる気になったようね。いいわ遊んであげるわ」
シャロはルイシャをその場に座らせ自らも剣を抜き放つ。
名刀『フラウ=ソラウス』。勇者オーガが使っていた名刀だ。
「見てなさいルイシャ。あんたの因縁、私が断ち切ってあげる」
そう言ってシャロは剣を構えるのだった。