閑話2 事件
「ふんふふーん♪」
ご機嫌な様子で歩くメイド服姿の少女アイリス。
彼女がこんなに気分良く向かう場所はただ一つ。ルイシャの私室だ。
学校のある日はあまりお世話をすることが出来ないので休日である今日はご奉仕しまくる予定なのだ。
男性寮は原則として女子が入ることは禁止されている。しかしアイリスは人目につかないように素早く移動し、ルイシャの部屋の前に容易くたどり着く。
「ふふ、この時間ならルイシャ様はまだ寝ておられるはず……朝からあの可愛らしい寝顔を拝めるとは役得ですね……」
そう言いながらアイリスは慣れた手つきでドアの鍵を爪でガチャガチャいじり、ものの数秒で開ける。
そしてまだ寝てるであろう主人を起こさぬようゆっくりとドアを開ける。
しかしアイリスの目に飛び込んで来たのは驚きの光景だった。
「…………あれ? ルイシャ様?」
何と部屋の中には誰もいなかった。
しかも窓は開け放たれ、布団は飛び起きたようにぐちゃぐちゃに放ったらかしになっている。
「ど、どこにおられるのですかルイシャ様!?」
慌てたアイリスはベッドの下や机の下など部屋をくまなく探すが一向にルイシャは見つからない。
「いったいどこに……おや?」
ふと机の上に目を移すアイリス。
するとアイリスは机の上に書き置きが残っている事に気づく。
別に隠してあったわけでは無いが気が動転していて気づかなかったのだ。
「えーとなになに……」
その書き置きにはこう書かれていた。
『ルイシャはもらってくわ!
私達は楽しんでくるから部屋の掃除よろしく!
ルイシャの恋人シャルロッテ・ユーデリアより』
「…………は?」
その書き置きを見たアイリスはプルプル手を震わせたあと、力任せにその書き置きを引き裂く。
「なるほど……一本取られましたね……!!」
アイリスは悪魔も逃げ出すような恐ろしい表情で窓の外を睨みつける。
部屋の様子から察するにルイシャ達が部屋を抜け出してから一時間以上経っている。
今から追って探すのは現実的ではない。
アイリスは己の不甲斐なさを呪いながら荒れた部屋を片付け始める。
「いいでしょう。あなたを敵として認めます。次は容赦しません……!!」
世にも恐ろしい女同士の戦いが始まろうとしていた――――