閑話1 チラシ
「あーもう! むかつく!」
アイリスと決闘した日の夜。
シャロは一人寮の自室で悶々としていた。
「きーっ! ルイが止めなければ私が勝ってたのにぃ!」
そう、決闘は途中で中止されたのだ。
お互い死力を尽くし非常にレベルの高いバトルをしてたのだが、あまりに気持ちが入りすぎてシャロとアイリスは本気を出してしまった。
勇者の末裔と吸血鬼。お互いの実力は学生レベルを軽く超えている。
そんな彼女らが本気を出せば命の取り合いにまで発展してしまう。
それを感じたルイシャは二人の間に割り込み決闘を中止させたのだ。
「それにしてもあいつ何者なのかしら。私と互角に戦えるなんて只者じゃないわね」
シャロは剣技のおかげで互角以上に戦えていたが、単純な魔法の腕で言えばアイリスの方が上だった。
さらに言えば身体能力も向こうの方に少し分があった。
この事実はルイシャ以外の同年代に負けることなどないと思っていたシャロにとってかなりショックなことだった。
「はあ、へこむ……」
気を落としながらシャロは寮の郵便受けに入っていた郵便物を確認する。
学生寮には様々なチラシが入れられることがある。
それらは全て魔法学園の認可を受けたものであり、怪しいものは入れられないことになっている。
学生向けの行事や商品のチラシがよく入ってるのでシャロもよく確認するのだ。
「へえ、新しい洋服屋ができたのね……あ、ここのカフェお洒落ね」
そうやってシャロはチラシを眺めていく。
そして何枚か見ていると、あるチラシで手が止まる。
「ん? これは……」
そのチラシは近くの国で開催されるお祭りの広告だった。
『商国ブルム』と呼ばれるその国では、年に一度商売の神様に感謝を捧げるお祭りがある。
国の至る所に出店が並び、珍しい魔道具なども出品される。
三日間の間続く祭り『祝商祭』だが、チラシによると次の休みの日から始まるようだ。
小さい頃は親に連れられこの祭りに行ったことがあるシャロだったが最近は行く機会もだいぶ減ってしまった。
「そうだわ! このお祭りなら邪魔も入らずルイと遊べるじゃない! ふふ、我ながら良い考えだわ! ルイに誰が本当の彼女なのか教えてやらなくちゃね!」
シャロは早速どこをどう回るかウキウキで予定を組み始める。
……このお祭りで思いもよらぬ最悪の出会いがあることも知らずに。