第7話 同盟
「我々吸血鬼の一族は300年間ずっとテスタロッサ様を探し続けてきました。しかし今に至るまで手がかりの一つも見つけることができず……心身ともに疲れ果てておりました」
その言葉に他の吸血鬼たちも頷く。
いくら吸血鬼が長命種とはいえ300年間手がかりなしでは心も折れるだろう。
「しかしそんな私どもの前に貴方が現れた。私は確信しています。今に至るまで私たちが他の魔族と手を組まず行動してたのは今日この時のためだったと」
吸血鬼一族の長である『ヴァンヘイル・V・フォンデルセン』は目尻に涙を浮かべながらルイシャに驚きの提案をする。
「どうか我々を貴方様の僕にして下され!」
「し、しもべ!? あなた達をですか!?」
「左様。数は少なくなりましたが吸血鬼としての力は衰えておりませぬ。どうか我々を導いてくださらないでしょうか?」
そう言って長のヴァンヘイルが跪きながら頭を下げると他の吸血鬼たちもルイシャに頭を下げる。
どうやら彼らは本気みたいだ。
「ど、どうして僕なんですか!? あなた達はテスね……テスタロッサの部下なんですよね?」
「はい。我々の主人はテスタロッサ様のみです。しかしテスタロッサ様の旦那さまであれば話は別です。ルイシャ様は我々が忠義を尽くすに相応しいお方です」
「そ、そうなのかな……」
まだ戸惑いを隠せないルイシャ。しかし彼らの真剣な顔に押され、ついに折れる。
「……分かりました。テスタロッサの忠実な部下であるあなた達を見捨てるわけにもいきませんからね」
「ほ、本当ですか!?」
ルイシャが主になることを認めると吸血鬼たちはさっきまでの真剣な表情はどこえやら、飛び上がって喜びお互いに手を叩きあう。
……さっきまでの殊勝な態度は演技だったのか?
大人のヴァンパイア達が喜び合ってるとアイリスが「とてて」と歩きながらルイシャに近づいてくる。
「騒がしい仲間たちで申し訳ございませんルイシャ様。でもみんな本当に嬉しいんです。ようやく300年の努力が報われるのですから」
そう語るアイリスの目元にも光るものが溢れる。年こそルイシャと変わらない彼女だが、生まれて間もない頃から魔王を探す活動を手伝っていたため魔王への思いは他のものと遜色ない。
「そうなんだ。まあ何はともかくよろしくね、一緒にテスタロッサを助けよう」
「ルイシャ様……!」
アイリスは握手しようと差し出されたルイシャの手を両手で恭しく包み込むと、その場に片膝をつく。
そして丁寧で綺麗な所作でルイシャの手の甲に柔らかい唇で軽く口付けをすると、教室での無表情なアイリスからは想像つかない花のような笑顔をルイシャに向けた。
「はい。私の力、全てルイシャ様に捧げます」
こうして魔王を救うための同盟は組まれたのだった。