第6話 吸血鬼
冷静になったアイリスにルイシャは自分の知っていることを全部話した。
テスタロッサが生きていること、竜王と一緒にいること、無限牢獄で共に過ごしていたこと、彼女たちを救うために勇者の遺物を探していること。
最初は半信半疑だったアイリスだが、ルイシャの体に刻まれた「魔竜士」の紋章を見て信用してくれた。
「ほ、本当に魔王様が生きていたなんて……」
その事実を知り泣き崩れるアイリス。
彼女が泣き止むまでの数分間、ルイシャはアイリスの背中を優しく撫で続けた。
「……ありがとうございます。もう大丈夫です」
目の下を腫らしながらもアイリスは元の整った顔に戻る。
それを確認したルイシャは安心する。
「……すいませんでした。知らなかったとはいえ魔王様の伴侶とも言える貴方の命を狙ったことは事実。どのような処罰もお受けします」
そう言ってアイリスは座ったままルイシャに深々と頭を下げる。
放って置いたら本当に自死してしまいそうなほど据わった目でそんなことをいうアイリスにルイシャは慌てる。
「ちぃ、ちょっと! いいって別に怒ってないから!!」
「しかしそういうわけには」
「ほら! これからテス姉を助けるために力を合わせなくちゃいけないんだし罰なんて受けてる暇はないんだから!」
「……確かに一理ありますね。わかりました、罰を受けるのは魔王様を助け出してからにします」
「そ、それがいいよ」
うまく丸め込めホッとするルイシャ。
「ところでルイシャ様、このことは誰か他の者に話されましたか?」
「いや? 今のところは誰にも話してないよ」
「そうですか、それはよかったです。もしこのことが他の魔族や竜族に知られたら大変なことになってしまいます」
「そうなの?」
「はい」
アイリスは現在の魔族と竜族の状態についてルイシャに説明する。
元々魔族と竜族は仲が悪く、よく小競り合いが起きていた。しかし平和主義者のテスタロッサとリオが王になってからは争う事は少なくなった。
だが勇者が二人の王を倒した事で状況は一変。二つの種族は再び仲が悪くなり一歩間違えれば全面戦争が起きそうなほど険悪らしい。
「もし王が生きてると知ればどちらの陣営もいかなる手段を使ってでも助け出そうとするでしょう。そしてお互いの邪魔をしあう。そうなれば戦争は避けられないでしょう」
「そ、そんなに仲が悪いんだ……」
そんな状態なら魔王と竜王が仲がいいから争いはやめるよう言っても信じてもらえないだろう。
ルイシャはいつか二つの種族の力を借りようと思っていたのだがそれは厳しいと知り落ち込む。
「そっか、じゃあ手は借りれないのか。残念だなあ」
「……そうとも限りませんよ」
そう言ってアイリスはパチリ、と指を鳴らす。
するとどこからともなく10名ほどの黒いマントに身を包んだ人たちが現れる。
全員が美男美女だ。そして鮮やかな身のこなし。
「まさかこの人たちって……!」
「はい。私たちはみな吸血鬼です。実は少し離れたところで私たちの様子を伺っていたのです」
「そうだったんだ。全然気がつかなかった」
ルイシャが結界魔法を使ったためアイリスとの戦闘には参加できなかった吸血鬼たちだったが、二人の会話は発達した聴覚で聞いていた。
そして二人の戦闘が終わり結界が解除された事で更に近づき待機していたのだ。
「突然現れ申し訳ない。私の話を聞いていただけますでしょうか」
新たに現れた吸血の中で最も年長に見える、白髪で紳士的なその吸血鬼の男性はルイシャに近づき跪く。