第4話 敵
「へ……? 僕が魔王の敵……?」
思いもよらぬ言葉にルイシャは混乱し固まる。
自分が魔王の敵であるはずがない。それどころか自分にとって『魔王テスタロッサ』は家族同然の特別な存在だ。
いやそもそも敵もなにも彼女は今も元気に生きている。世間一般で言えば死んでることにはなっているのだが、それにしても歴史上では魔王を撃ち倒したのは勇者ということになっている。
なぜ目の前の少女は自分が魔王を倒したと思っているんだ?
「なんで僕が魔王を倒したと思ってるの?」
「簡単なことです。あなたからは魔王様の魔力を感じるからです」
それを聞いてルイシャはギクリとする。
確かにルイシャの体内には魔王テスタロッサの魔力が『混ざって』いる。
これは300年という長い時間をかけてテスタロッサがルイシャに自分の魔力を流し続けた成果だ。そのおかげでルイシャは本来魔族の血が流れてないと使えない暗黒魔法を使うことができるようになったのだ。
テスタロッサからは「私の魔力は本当にうっすらとしか混ざってないからバレないと思うわよ」と言われていたので今まで自分に『魔王の魔力』が流れていることなど気にしていなかった。
しかし目の前の少女はそれをいとも容易く看破していたのだ。
「他のものなら騙せたでしょうが私の眼は誤魔化せません」
そういってアイリスは自分の真っ赤な瞳を指差す。
よく見るとその瞳には六芒星の紋様が浮かび上がり、更に強い魔力を帯びている。
「その瞳……まさか『魔眼』……!?」
「よく知ってますね。私の『魔眼』の前に隠し事など出来ません」
魔眼。それは魔力を視覚で捉えることのできる特殊な瞳のことだ。
通常目では見えない魔力を『見る』ことのできる魔眼保持者は魔力の形や大きさ、色などの情報で相手の魔力を深く分析することができる。
アイリスはこの力でルイシャの魔力の中に混ざっているテスタロッサの魔力に気づいたのだ。
「初めて貴方を認識したのは入学試験の時でした。最初は私も気づきませんでしたが……貴方が『暗黒魔法』を使ったときに魔王様の魔力を感じ取り気づくことが出来ました」
「あの時から僕を見張ってたのか……!」
ルイシャは入学試験の時お漏らししたシャルロッテを助けるため暗黒魔法「黒帳」を使った。
アイリスはその時からルイシャの観察を始めていたのだ。
「人間離れした身体能力と深い観察能力、そして貴重な『魔眼』持ち……君は一体何者なんだ?」
ルイシャの問いにアイリスは誇らしげに答える。
「私は、いえ私たち一族は偉大なる魔王様に使えし一族」
そう言うとアイリスの背中からバサッ! と蝙蝠のような羽が生える。
丸かった耳は尖り、牙が生え幼いながらも妖艶な魅力を持った少女へと姿を変える。
「名は『アイリス・V・フォンデルセン』……『吸血鬼』です」
そう自己紹介した彼女は鋭い牙を覗かせて妖艶な笑みを見せるのだった