第3話 主人
問答無用でルイシャに襲いかかる金髪紅眼の美少女アイリス。
彼女は物凄い速さでルイシャに接近すると勢いそのままにルイシャに回し蹴りを放ってくる。
狙いは頭部。常人なら確実に死に至るであろうその正確で速い蹴りをルイシャは右腕でガードし受け止める。
もちろん気功の力で腕を硬くしている。例え剣でも受け止められる硬さだ。
しかし。
「いっ……た……!」
アイリスの蹴りは気功で硬くしたルイシャの腕にダメージを与える。
予想を超える痛みにルイシャの反応は少し鈍る。そしてアイリスはその隙を見逃さなかった。
「鮮血の刃!!」
アイリスの指先から放たれたのは血液で出来た魔法の刃。
ルイシャはそれをまともにくらい吹っ飛んでしまう。
そしてそのまま木に激突し砂煙をあげる。
それを見たアイリスは勝利を確信し静かに笑みを浮かべる。
「敵は取りましたよご主人様……」
そう言ってその場を去ろうとするアイリス。
しかし砂煙の中から立ち上がる気配を感じ立ち止まる。
「いててて、容赦ないなあ。腕を擦り剥いちゃったよ」
「馬鹿な……!? 殺すつもりでやったのに!?」
ケロリとした表情で起き上がるルイシャを見たアイリスは驚きの表情を浮かべる。
なぜあの魔法をくらってほとんどダメージがないんだ?
構えるアイリスと対照的ににこやかなルイシャは今自分がくらった魔法に関心があった。
「血液魔法なんて珍しい魔法を使えるんだね。確か自分の血液を代償にすることで普通の魔法より大きな力を発揮できる魔法だよね。どこで習ったの?」
「……敵である貴方に教えることなど何もありません。次こそ息の根を止めます! 鮮血の大鎌!!」
アイリスの指先から再び血が吹き出し、それは2mほどの大きな鎌の形になる。
自分の背丈より大きな鎌を振り回しルイシャに斬りかかるアイリス。
彼女の人間離れした身体能力と巨大な鎌のリーチにより恐ろしい速さで斬撃の雨がルイシャに襲いかかるが、ルイシャは既にその動きを見切っていた。
最小の動きでその攻撃を全て躱していた。
「くっ……! なぜ当たらない!?」
想像を超えるルイシャの回避能力に歯噛みするアイリス。
やがてこの攻撃では決着がつかないと悟ったのか彼女は一旦ルイシャから距離をとり、魔法の鎌を消す。
「なるほど……わが主人を手にかけただけの事はあるようですね。ではこちらも更に本気を出させていただきます」
そういってアイリスは更にその目に殺気を孕ませルイシャを睨み付ける。
そのあまりの剣幕に流石のルイシャも慌てる。
誰も殺したことがないのになんでこんなに恨まれてんの!? 全く心当たりがない!!
「だから待ってよ! いったい君の主人って誰なの!? 全く心当たりがないんだけど!!」
「誰かわからない、ですって……!? あの方を手にかけておいてよくそんなことを言えますね。しかしいいでしょう。しらを切るのでしたら私が貴方の罪を教えて差し上げます」
そして次の瞬間アイリスは驚くべき言葉を口にする。
「私の主人は魔王『テスタロッサ・S・ノーデンス』様です」
彼女の口にしたその名は、ルイシャもよく知る人の名前だった。





