第1話 視線
ルイシャが初めてそれに気づいたのは、休日にワイズパロットのパロムと遊んでいる時だった。
「……ん?」
何かに見られているような気配を感じて振り返るルイシャだったがその視線の先には木々が葉を揺らしているだけで誰もいない。
「気のせい。なのかな? パロムは何も感じなかった?」
「クエ?」
ルイシャの言葉にパロムは首をかしげる。
どうやら何も感じなかったようだ。
「うーん、まあ気にしてもしょうがないか。じゃあ続きをしようか」
そう言うとルイシャはフリスビーを複数パロムの前方に投げる。
するとパロムはそれを追うように飛び立つ。
「パロム! 風巻だ!」
「クエぇ!」
パロムはルイシャの指示に従い羽を羽ばたかす。
すると小さな竜巻が複数現れ、的確にフリスビーを撃ち落としていく。
「全弾命中! すごいよパロム!」
「クエっ♪」
ルイシャが褒めるとパロムは嬉しそうな鳴き声を上げながらルイシャに自分の頭をゴシゴシと押し付ける。
「はは、分かったって。ほらちゃんと撫でるから」
ルイシャは甘えてくるパロムの頭を強めに撫でる。
するとパロムは「キュ〜」と甘えた鳴き声をあげる。身体こそ大きいがまだパロムの年齢は4歳ほど。まだまだ甘えたい盛りなのだ。
そんなパロムをあやしながらルイシャは先ほど感じた視線のことを考える。
さっきのはただの視線じゃなかった。「殺気」すら感じる強い憎しみを感じた。
いったい誰が……?
その日はそれ以降その視線を感じることはなかったが、ルイシャはこの後もこの視線に悩まされることになるのだった。
◇
それから数日後の朝の教室。
ルイシャは疲れた様子で自分の机に突っ伏していた。
そんなルイシャを心配して隣の席のシャロが声をかけてくる。
「どうしたのルイ? 昨日寝れなかったの?」
「いやちょっと色々あってね……」
色々、というのは数日前の謎の視線の件だ。
あれからルイシャは外を歩いている時、自室にいる時、学校にいる時、場所や時間を問わず様々な場面であの視線を感じていた。
しかしそれに気づいて振り返るとその視線は消え失せてしまう。今のところ視線を感じる以外のことは起きていないのだがルイシャの精神はそのせいですり減っていた。
「なにかあったなら力を貸すわよ?」
「いや大丈夫、もうすぐカタをつける予定だから」
「そう。まあルイがそういうなら心配ないわね」
ルイシャに全幅の信頼を寄せているシャロは心配するのをやめ授業の支度を始める。ルイシャはこのシャロのいい意味でサバサバしたところが実は好きだったりする。
「じゃあ僕も授業の準備をしようかな」
そう言って机の中に手を伸ばした瞬間、ルイシャはあの「視線」を感じる。
「!!」
急いで振り返るルイシャ。しかしそこにはよく見知ったクラスメイト達しかいなかった。
謎が深まる視線の正体。
しかしルイシャは静かに笑っていた。
「せいぜい今のうちに見てるがいいよ。今日決着をつけてやる……!」
ルイシャはまだ見ぬ視線の主にそう宣戦布告するのだった。