第16話 また
ルイシャ達はその後他愛のない話をしたり、新しい技を教えてもらったりした。
会えなかった時間を埋めるように三人はその時間を噛み締めながら過ごした。
しかし楽しい時間が過ぎるのは早い。
ルイシャが無限牢獄に来てから6時間ほど経った頃、ルイシャの体に異変が起こり始める。
「ルイくん……!! 体が透けてるわよ!?」
テスタロッサの声でルイシャは自分の体が透け始めていることに気づく。
「ああ、もう時間なのか……早いなあ……」
「おいルイ! どういうことじゃ!? わかるように説明せい!」
「うん、これは桜華さんに会った時と同じなんだ。つまり……もう帰らなきゃいけないんだ」
そう言ってルイシャは今の状態を二人に説明する。
今のルイシャの肉体は現実世界にある。
つまりここにいるルイシャは精神体だ。実際に触れ、会話をすることが出来ているがそれは魔力の力であり仮初のものに過ぎない。
そして肉体と精神が離れると言うのは危険な行為だ。
長時間離れてしまうと肉体と精神のリンクが切れ、元の肉体に戻れなくなってしまう可能性がある。
なので現実世界で一分。無限牢獄内で約六時間がタイムリミット。その時になるとルイシャの精神は自然に元の体に戻ってしまうのだ。
「……そうだったのね。会えなくなるのは寂しいけどしょうがないわね」
テスタロッサはそう言って笑うとルイシャを優しく抱きしめる。
「テス姉……?」
「不思議ね。ルイくんに会う前の方が無限牢獄にいた時間はずうっと長かったのに、ルイくんがいなくなってからの方が時間が長く感じたわ」
テスタロッサは思い返す。
ルイシャが来るまでの時間は本当に退屈でつまらない日々だった。
毎日毎日何をすることもなく、ただ自分が作った外の時間を測れる砂時計が流れ落ちるのをみるだけ。だんだん心が腐っていくのを感じていた。
しかしルイシャが去ってからは毎日が充実していた。
次会えたら何を教えてあげようか? ちゃんと食べてるかな? 病気とかしてないかな?
毎日そんなことを考えていた。
そしてそれはリオも同じ。二人とも会わずともルイシャの存在に救われていた。
「達者でなルイ。向こうに戻っても頑張るのじゃぞ」
テスタロッサに続きリオもそう言ってルイシャを力強く抱きしめる。
「忘れるでないぞ。お主にはわしが……いやわしらがついておる。たとえ世界が敵になろうともわしらだけはお主の味方じゃ」
「うん……うん……」
リオの強くて優しい言葉にルイシャの目から涙がこぼれる。
これほど嬉しい言葉はない。この言葉だけで僕は誰とだって戦える。
二人から力を貰ったルイシャは二人を力強く抱きしめ返し……そして離れる。
「ありがとう。それじゃ……また」
「うん、またね」
「うむ、また会おうぞ」
三人はそう言って笑い合う。
そして気づけば三人は……二人になっていた。
「行っちゃった、か」
「かか、心配せずともまた会えるじゃろうて」
「そうね……」
しかし言葉とは裏腹にテスタロッサの顔は浮かなかった。
それに気づいたリオはテスタロッサを心配する。
「なんじゃ? 気がかりでもあるのか?」
「うん、気のせいだと思うのだけど……ルイくんからあいつの匂いが少しだけしたの」
「あいつ? いったい誰のことじゃ?」
テスタロッサは言うか少し悩んだが、意を決してその名をリオに告げる。
「私たちを封印した張本人『勇者オーガ』よ。あいつの匂いがルイくんからしたの」
そして時を同じくして無限牢獄第一層。
無限牢獄の管理人『桜華』は虚空を見上げながら誰に言うでもなく呟く。
「ルイシャ……あなたならきっと倒せるはずです」
その眼はルイシャがいる時の優しい眼ではなかった。
憎しみの詰まった恐ろしい形相。美しい顔立ちにはとても似合わない鬼の形相がそこにはあった。
「必ず倒し――――いえ、殺してください。あの大罪人を。必ず、必ず殺してください」
そして桜華はその名を口にする。
己が最も忌み嫌い、名を口にするのすら躊躇するその者の名を。
「勇者オーガを、必ず殺してください」
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