第11話 与える人
「教えてくれねえか? どうしたらそこまで他人のために動けるようになるんだ?」
倉庫で一回ヴォルフはルイシャに似たようなことを聞いた。
しかしそれでも納得できなかったのだ。同じ歳くらいの小さな少年が人のために体を張れることが。
真剣に聞かれたルイシャはポリポリと鼻先をかいて恥ずかしそうにしながら答える。
「……僕は昔なんの取り柄もなかったんだ。今でこそ普通に戦えるまで強くなったけど昔の僕は本当にダメダメだった」
ルイシャは昔のことを思い出しながらぽつりぽつりと語り始める。
「そんな何もなかった僕に、ある日師匠が出来たんだ。その師匠は色んなモノを僕にくれた。魔法の使い方や生き抜くための知恵。……そして優しさと愛情。全て師匠たちから貰った」
今でも思い出すと泣きそうになる。
それほどまでにあそこで3人で暮らした日々はルイシャにとって眩しい宝物だった。
「いつの間にか何もなかった僕は二人に貰ったモノで一杯になった。だから僕は決めたんだ」
ルイシャはもう空っぽではなくなった瞳でヴォルフを見つめ、言う。
「僕も『与える人』になろうってね」
「与える……人……?」
「うん。僕はもう師匠たちに返し切れないほどたくさんのモノを貰った。だからこそ僕も師匠たちみたいに『与える人』になろうって決めたんだ。だからクラスメイトのみんなに師匠から教わったことを教えてるんだ。僕がみんなに教えてもらっちゃうことも多いんだけどね」
ルイシャは「ははは」と照れ臭そうに笑いながら本心を語る。
嘘偽りのないルイシャの本心を聞いたヴォルフは「敵わない」と思った。
自分は他者に奪われないことだけを考えていた。
とても誰かに何かを与えるなんて考えもしたことがなかった。
この差こそが自分と少年の違いなのだとヴォルフは納得した。
そして彼は意を決してルイシャの前に膝をつき、両の拳を地面につける。
「え、なに? どうしたのヴォルフ!?」
「この姿勢は獣人にとって『完全なる服従』を意味する。どうか俺をあんたの配下にしちゃくれないか?」
「は、配下!?」
突然の申し入れに困惑するルイシャ。
当然断ろうとするのだがヴォルフの決意は固かった。
「いやいや友達になってくれればいいよ! 配下なんて募集してないし!」
「ああ。だがこの先必ず力が必要になるはずだ。大将はただの生徒で終わる器じゃあねえからな」
「いやでも……」
「別に普通の友達として扱ってくれて構わねえ。だが心だけでも大将の配下にしていただけねえだろうか!」
「ヴォルフ……」
最初は嫌がっていたルイシャだがヴォルフの熱い言葉に覚悟を感じとる。
それを跳ね除けるのはヴォルフの覚悟を踏みにじる行為だと感じたルイシャはその申し入れを受けることにする。
「……分かった。その代わり僕は普通の友達として接するからね」
それを聞いたヴォルフの顔はパッと明るくなり、ルイシャの手をガシッとつかむ。
「……本当かっ!? よっしゃあ! これからよろしくな大将!」
「うん、よろしくねヴォルフ」
ガシガシと揺さぶられながらルイシャはヴォルフと握手する。
こうしてルイシャの初めての配下にして、生涯の忠臣となるヴォルフが仲間になったのだった。