第7話 逃亡
そもそも獣人とは何者か。
彼らのルーツは遥か昔まで遡らなければいけない。
彼らの祖先は人と獣のハーフだ。
ゆえに人間の知能と獣の身体能力どっちの特徴も併せ持つ。
しかし普通は人と獣の間に子供はできない。
なのになぜ獣人が生まれたかと言うと、その時代にものすごく強い獣がいたからだ。
王紋を覚醒するまで強くなった獣は繁殖力も強かった。その力は別の種族を妊娠させてしまうほどに。
こうして生まれたのが獣人だ。
そして太古の獣人には変身能力があった。
獣の姿、人の姿、そして両方併せ持った獣人の姿。
しかし今の獣人は永い歴史の中でその変身能力を失ってしまった。
しかし極稀に今の時代にも生まれるのだ。
変身能力を生まれ持った獣人が――――
『ウガアアアアアアアアッッッ!!』
雄叫びを上げながら狼に変身したヴォルクが盗賊に体当たりする。
全長2mを超すヴォルクの体当たりをマトモに受けた盗賊は壁に激突し意識を失う。
「来るな来るなァ!!」
ヴォルフ目掛けて銃を乱射するが無駄。
黒き風となって駆け抜ける狼にそんなものは当たらない。
ヴォルクは次々と盗賊団を地面に転がしていき、数分の内に壊滅させてしまう。
それを見た頭は勝ち目がないと判断し奥の手を出す。
「くそっ! こうなったら!」
そう言いながら近くの大きな檻を開けて中から大きな緑色の鳥を外に出す。
それを見たヴォルフは驚く。
「あれは賢者鳥!? あんな希少種まで持ってたのか!」
ワイズパロットは密林に住む巨鳥だ。
姿は2mを超す巨大なオウム。知性が高く平穏を好む温厚な鳥だ。
人間より賢いと言われ、捕まえるのは困難なためマニア間で高値で取引されている。
「おら! さっさと飛べ! 殺されてえのか!?」
頭は嫌がるワイズパロットに無理やり跨り、羽を羽ばたかせて宙に浮く。
そしてそのまま倉庫の天井を突き破って外に逃げてしまう。
「くそっ、どうすれば!?」
ヴォルフの脚力を持ってすればワイズパロットを叩き落とすことはできる。
しかし無理やり従わされてるワイズパロットを傷つけることは出来なかった。
葛藤するヴォルフを見たルイシャは痛む腹を押さえながら立ち上がりヴォルフに近づく。
それに気づいたヴォルフは心配そうにルイシャに話しかける。
「おい、動いて平気なのか!?」
「ふふ、僕もそうしていたいけどね。あいつを逃すわけにはいかないでしょ」
既に魔法で銃弾を取り、傷も塞いではいるが痛みはすぐには消えない。
それでも立ち上がるルイシャを見てヴォルフは決意する。
彼はその場に伏せ「俺に乗れ」と言った。
「……へ?」
「何度も言わせんな。乗れと言ったんだ」
ルイシャが戸惑うのも当然だ。
知性の持った四足獣が背中に誰かを乗せるのは意味があるからだ。
それは『絶対的信頼』。
彼らは命を預けられると思った人しか背中に乗ることを許さないのだ。
「正直まだ人間全員を信頼なんざできねえ。だけど同じはみ出しもの仲間のあんたなら……、いや俺と同じあんただからこそ信用できる。どうか俺の背中に乗ってくれないか?」
「ヴォルフ……うん、わかった。一緒にあいつに勝とう!!」
颯爽とヴォルフの背中に跨るルイシャ。
そのフカフカの背中はとても安定していて安心感すら感じる。
そして同時に背中に乗せたヴォルフも安心感を感じていた。
まるで欠けていたピースが埋まったように体が軽い。そうか、俺は信頼できる人がずっと欲しかったんだな……。
今二人は一人の獣になった。
身体は違えど心は一つ。
「「よし、行くぞ!!」」
一匹の黒き獣はそう叫び走り出した。