第6話 覚醒
「死ねぃ!!」
放たれる弾丸。
その音でヴォルフは自分が狙われていたことに気づくがもう遅い。いくら足が早いとはいえ臨戦態勢でないヴォルフでは銃弾を避けることはできない。
「危ない!」
しかしルイシャは反応した。
この一瞬で魔法や気功術を発動することはできない。しかし盾になることぐらいなら!
銃弾とヴォルフの間に滑り込んだルイシャは自らの体を盾にしてヴォルフを守る。
いくら鍛え上げたルイシャといえど腹筋で銃弾を弾くことなどできない。銃弾はルイシャの腹部に深々と突き刺さる。
貫通しなかったのは不幸中の幸いだ。
「うぐ……!」
痛みに顔を歪め、その場に膝をつくルイシャ。
我に帰ったヴォルフが心配して駆け寄る。
「おい! 大丈夫か!?」
顔を青ざめながらヴォルフが傷を確認する。
幸いなことに銃弾は内臓は傷つけてないようだ。出血もそれほどではない。
これなら命に関わることはないだろう。
「なんで俺なんかを助けた!? 俺は人間を嫌っていると言うのに!?」
ヴォルフに抱え上げられながらルイシャは答える。
「だから、だよ。君は僕に、いやZクラスに似てるから」
「ど、どういうことだ?」
「僕、たちも、差別を受けてきた。生まれが特殊だったり、変な才能があったり、そもそも才能が無かったり。そこに違いはあっても同じ辛い子供時代を過ごして、きた」
「そ、そうだったのか……」
そもそも関わろうとしなかったヴォルフはクラスメイトがそんな思いをしているなんて知らなかった。
辛いのは自分だけなのだと思い込んでいた。
「僕は、変わった。師匠、そしてクラスのみんなと会って。だからヴォルフにも変わって欲しいんだ」
「ルイシャ……」
ずっと差別を受けていると感じていた。
自分は被害者。人間が加害者。簡単な図式だ。
でも違った。
自分も差別をする側だった。
人間をひとくくりにして悪と決めつける。
それが獣人をひとくくりに格下と扱うことと何が違う?
ヴォルフはこの時初めて自分の間違いに気付き、そして変わることを誓った。
自分より身体は小さいけど、自分よりとても大きかった少年に追いつけるように。
今こそ殻を破る時。
「いくぜ。お前らに特別に見せてやるよ。俺の真の姿をな……!」
ヴォルフは地面に優しくルイシャを置くと、体に力を込める。
するとなんと彼の体がバキバキと音を立てて変形し始める。
全身から黒くて長い体毛が生え、手足は長くなる。
鼻先が伸び、大きな牙と爪がメキメキと生える。そして大きな瞳は赤く染まり……変身が終わるとそこには大きくて美しい黒い狼がいた。
「さあ、蹂躙するぜ!」
心の霧が晴れ、迷いのなくなった孤狼は力強く地面を蹴って盗賊たちに襲い掛かった。