第4話 倉庫
「……着いた。足跡の人物はこの建物に入ったみたいだね」
「ぜえ、ぜえ、ぜえ、そうかい……」
二人が足跡を追って辿り着いたのは古びた大きな倉庫。
随分前から使われてないようだが一体なぜこんなところに入っていったのだろうか。
「よし、じゃあ入ろうか」
そう言ってルイシャは倉庫の大きな鉄の扉をバン! と力づくで開ける。
内側を鉄の鎖で鍵をかけていたようだがルイシャの馬鹿力には関係なかった。バラバラの鉄屑が地面に転がっただけで足止めにもならない。
「へえ、中は広いね」
広い倉庫の中にはたくさんの荷物が積み上がっていた。
ヴォルフがその中を調べてみると、そこにあったのはボロ倉庫には似つかわしくない金銀宝石や魔道具などの高価な品々だった。
それを見たヴォルフはチッと舌打ちをする。
「……こりゃやべえ事に首を突っ込んじまったかもな。これは全部盗品みてえだ。どうやらここは大きな盗賊団の隠し倉庫。早いうち逃げて騎士団に通報した方がいいぜ」
「確かにそうみたいだね。でももう逃げるのは遅いみたいだよ」
ルイシャがそう言うと入ってきた扉が音を立てて閉じる。
そして荷物の物陰から男たちが出てきてルイシャとヴォルフを取り囲む。その手には最近開発された武器である銃が握られている。
まだ高級品であるこの武器をいくつも持っている。つまりヴォルフの想像通りこの盗賊団はかなりの資金力を持つ大きな組織ということだ。
「……なんだてっきり騎士団がここを嗅ぎつけたのかと思ったらガキじゃねえか。迷い込んじゃったのかな僕ちゃんたち?」
そう喋りながら現れたのは盗賊団の頭と思わしき大柄の男だ。
体の至る所に金や宝石でできたアクセサリーをジャラジャラと身につけている。どうやら相当儲けているようだ。
「おいてめえ! お前らが路地裏に置いてあった魔道具を盗んだんだろ! そのせいで俺が疑われたんだよ!」
「路地裏? 魔道具? ……ああ、それのことか」
盗賊団の頭が指差す先にあったのは一つの木箱。
そこに書かれていたのは「マーカス商店」の文字。間違いなくこれだ。
「やっぱりてめえらが……! 許せねえ!!」
喉を鳴らし威嚇するヴォルフ。
しかし盗賊団はそんな事意に介さず笑う。
「ハッハッハッ! 悪かったなぁ狼くん。どうやら俺たちのせいで大変な目に合わせちまったようだ。どれ、そのお詫びにお前の飼い主でも探してやろうか?」
「……おい、それ、どう言う意味で聞いてやがる」
額に血管を浮かび上がらせながらヴォルフは尋ねる。
目は怒りに染まり握る拳からは血が垂れる。
「言葉の通りさ。獣人にはご主人様が必要だろ? だから探してやるのさ。ちょうど若くて筋肉質の獣人が好きな金持ちの顧客がいるんだ。そいつなら可愛がってくれるだろうぜ!」
頭がそう言うと周りの手下が大声で笑う。
怒りで気が狂いそうになるヴォルフ。その怒りのままに飛びかかりそうになるがそれをルイシャが止める。
「冷静さを失っちゃダメだ。奴らの思うツボだよ」
「うるせえ! どうせてめえも俺のことを下に見てんだろ!? 獣人のことを汚えと思ってんだろ!?」
涙ながらに訴えるヴォルフ。
ルイシャはそんな彼の瞳を真っ直ぐに見ながら言う。
「思って、ないよ」
飾り気のない単純な言葉。
普通ならそんな言葉にヴォルフの心は動かないが今は違った。
この男は、信じられる。
理屈ではなく、ヴォルフの獣の本能がそう訴えていたのだ。
「もう大丈夫みたいだね」
冷静さを取り戻したヴォルフを見てルイシャは安心し盗賊団に向き直り、拳を構える。
先程までの優しい目は消え去り、その目には歴戦の猛者を彷彿とさせる凄味が宿る。
「……さて、僕の友達を侮辱した報い、受けてもらうよ」