第3話 調査
「友達、だと……!?」
ヴォルフはルイシャの言葉に驚愕する。
なぜなら二人は会話という会話をすらほとんどしたことがなく、とても友達と呼べる間柄ではなかったからだ。
それどころか友達になろうと話しかけてくるルイシャをヴォルフはいつも威嚇して追い返していた。
なぜならヴォルフは人間なんて全員信用ならない。
そう信じていたからだ。
――――そう、信じていた。
しかし目の前の人間はどうだ。
自分を差別するどころか手を差し伸べてくる。なぜ? こんな人間がいるのか?
この時ヴォルフは初めて人間に対して暖かい感情を抱いた。
ヴォルフがそんなことを考えているとはつゆ知らずルイシャは「さて、じゃあ調査を始めようか!」と真犯人探しを始める。
ルイシャはまず木箱が置かれていた場所を確認する。
しかしそこには足跡も残ってない。普通であれば何も手がかりを見つけることはできないだろう。
でもルイシャには秘策があった。
「よし、魔法解析!」
ルイシャがそう唱えると木箱が置いてあった場所が青白く光出す。
そしてその光は肉眼では見えないほど薄い足跡を見つけ出し、その足跡を光らせる。
「おいおい何だこの魔法は!?」
「これは解析魔法だよ。友達に教えてもらったんだ」
驚くヴォルフにルイシャは得意げにそう言って「にしし」と笑う。
今使ったのはルイシャの友人、ハーフリングの少年チシャの得意魔法である解析魔法。
習得難度の物凄く高いこの魔法だがルイシャはチシャに教えてもらって使えるようになっていた。
流石に解析魔法のエキスパートであるチシャほどの精度はまだ無いが、それでもこの短期間で解析魔法を習得するのはとんでもないことである。
その魔法の力で犯人の痕跡を見つけ出したルイシャは足跡を目で追う。
「お、あっちに行ったみたいだね」
光る足跡は路地裏の奥の方まで続いて行った。
どうやら犯人は向こうに逃げて行ったようだ。
「よし追おう!」
「ちょ、俺も行くから待て!」
そう言ってルイシャは駆け出し、それを追ってヴォルフも走り出す。
常人では目にも止まらない速さで駆け出す二人を見てマーカスはポツリと呟く。
「いったいあいつらは何者なんだ……?」
◇
人通りのない路地裏を二人は駆け抜けていく。
ルイシャは気功の力で速度を上げていた。その速さはZクラスでもメレルしか追いつけないほどの速さだ。
しかしヴォルフはそんなルイシャに追いついていた。
「ヴォルフってそんなに足速かったんだ! すごいね!」
「おめえこそ人間のくせに速過ぎだろ! 一体何者なんだ!?」
足の速さには自信があったヴォルフだが、人間なのに同じ脚力を持つルイシャにプライドをズタズタに引き裂かれていた。
そんなこと知る由もないルイシャは自分についてこれる速さの人がいたことが嬉しくなり更に速さを上げ始める。
「ようし行っくぞー!!」
「ま、まだ速くなんのかよ! ちっ、負けてられるかよぉっ!!」
二人は砂煙を巻き上げながら裏路地を爆走するのだった。