第2話 友達
侮蔑するような眼でおっさんはヴォルフを睨み付ける。
ヴォルフもそれに反発して「俺はやってねえ!」と叫ぶがおっさんは聞く耳を持たない。
このままでは埒が開かないのでルイシャはおっさんこと商人のマーカスに細かいことを聞く。
マーカスの話によると路地裏に置いた彼の商品、魔道具が入った木箱が少し目を離した隙に無くなってしまったらしい。
そして運の悪いことにその時たまたまヴォルフが路地裏を歩いていた。
なのでマーカスはヴォルフが商品をどこかに隠してると疑っているのだ。
「だから俺はやってねえって言ってるだろ!」
「うるせえ! 獣人の言うことなんて信じられるか!」
獣人差別はいまだ根深い。
王国法で差別行為は規制されている。しかし長年残っていた差別感情は法律一つでそう簡単に消えるものではない。
今でも獣人お断りの飲食店や宿屋はいくつも存在している。
そして犯罪行為があった時、犯人候補に獣人が挙がるのも珍しくない。
ヴォルフがやったという確たる証拠はないこの状況でも、このままでは罪を被せられる可能性は高い。
だったらここは自分が頑張らねくては。
人間である自分ならこのおじさんも話を聞いてくれるだろう。
そう思ったルイシャは行動に出る。
「わかりました。なら僕が真犯人を探します! もし見つけたら彼を解放してくれますよね?」
「あ? そりゃもちろん構わねえが……」
ルイシャの押しに押されてマーカスはそれを了承する。
「だが期限は今日の夕刻までだ。それを過ぎたら王国騎士団に通報させて貰うぜ」
「わかりました。それで構いません」
ルイシャはマーカスと約束するとヴォルフに向き直る。
「よし、じゃあ真犯人を探そうか!」
そう言ってニコッと笑うルイシャにヴォルフが吠える。
「おい、なんで首を突っ込んでくんだよ! てめえは関係ないじゃねえか!」
本当は内心嬉しかった。
今まで人に庇われることなんてほとんど無かったから。
でも長年の差別でねじ曲がったヴォルフの心はルイシャの優しさを素直に受け入れられなかった。
「なんか狙いがあるのか? 俺に優しくしたっていいことなんかねえぞ!?」
ヴォルフはルイシャを突き放すように言うが、ルイシャはキョトンとして暴言に嫌な顔一つしない。
そして少し黙った後言った言葉はヴォルクの胸に深く突き刺さった。
「うーん、ヴォルフはさ物事を深く考えすぎなんだよ。僕は君を利用しようとかそんなの考えてないよ」
「じゃ、じゃあなんで俺に絡んで来るんだ!? 獣人とつるんだって損するだけだろうが!」
ルイシャはその言葉に笑ってこう返した。
「そんなの僕たちが友達だからに決まってるでしょ?」