第1話 休日
魔法学園には週に二回休みがある。
これはエクサドル国王フロイが決めたことである。
フロイ王は学園の細かい決まりごとを作る際、友人でありS級冒険者でもあるキクチという人物の知恵を借りたと言われている。
この学園は今までの学園にはなかった斬新な制度が採用されており、そのキクチという人物は別の世界からやってきたのでは? とまで噂されるほどだ。
つまり何が言いたいのかと言うと、今日ルイシャは休みであり暇を持て余しているということだ。
「あ~あ。暇だなあ」
商業地区にある栄えた通りを歩きながらルイシャはボヤく。
いつも休日は友達と遊んだり鍛錬したりしてるのだが今日は友達となんの約束もしてない上、体を休ませる日なので鍛錬も出来なかった。
更にシャロも予定があると言っていたので本格的にやることがない。
なので当てもなく散歩しているのだ。
「お腹も空いてきたし何か食べようかなー」
誰に言うでもなくそう呟く。
何か美味しそうなものでもないかとルイシャは耳を澄ませて辺りの音をよく聞く。
すると客を呼び込む声や肉を焼く音などで周囲に何が売っているかだいたい分かる。気功術の力で五感の感度が上がってるルイシャだからこそ出来る芸当だ。
「……ん?」
様々な音の中で引っかかる音を見つけたルイシャはその場に立ち止まり集中する。
二人の男が怒鳴り合う声。
それが路地裏から聞こえてきたのだ。
しかも片方の声にルイシャは聞き覚えがあった。
「なんであの人が……?」
気になったルイシャはその声が聞こえてくる路地裏に入り込む。
そこにいたのは怒った様子で怒鳴り散らすハゲ頭にねじり鉢巻が特徴のおっさん。
そしてもう一人はルイシャのクラスメイト、狼の獣人『ヴォルフ・ブラックバイト』だった。
ヴォルフは黒い尻尾と耳を逆立て、今にもおっさんに噛みつきそうな勢いで威嚇していた。
まさに一触即発。
今にも血みどろの喧嘩に発展しそうだ。
ルイシャは急いで二人の間に入って宥めようとする。
「ちょ、ちょちょちょ待って! いったい何があったんですか!?」
突然入り込んできたルイシャにヴォルフは驚く。
「あ!? なんでてめえがここにいんだ!? てめえには関係ないだろ!!」
「まあまあ、いいからここは僕に任せて」
ルイシャはガアガア喚き立てるヴォルフを無視しておっさんの方を向くと、再度何があったかを尋ねる。
「で、何があったんですか?」
「なんだあんちゃんコイツの知り合いか? ならあんちゃんからも言ってくれよ! この獣人が俺の大事な商品を盗みやがったんだ! これだから獣人は嫌いなんだ!」
そう言っておっさんは汚いものを見るような目でヴォルフを睨みつけた。