第19話 成果
無限牢獄の中――――
そこではルイシャと桜華が剣を打ち合っていた。
「……そこっ!!」
桜華がルイシャのスキを突き脇腹に剣を突き刺す。
しかしルイシャは体をよじりその一撃を躱すと、逆に防御が手薄になった桜華の頭部に竜王剣を振るう。
ピッ。
桜華の頬に赤い筋が入り、血が頬を伝う。
頭を引いてルイシャの一撃を躱そうとした桜華だが、ルイシャの方が一枚上手だったようだ。
桜華は自らの頬から流れる血を細い指先で拭うと、それを見てわずかに微笑み剣を下げる。
「……ふふ、受けてあげる気はなかったのですが。腕を上げましたね」
「はあ、はあ。僕には良い師匠がたくさんいますからね」
二人は談笑しながら椅子に座り桜華の淹れたお茶を飲む。
ルイシャは四日に一度の頻度でこの空間に呼ばれ桜華から剣の修業を受けていた。
そして現実世界ではシャロとイブキの二人から剣を教わっていたのでルイシャの剣の腕はメキメキ上がっていた。
「そういえば何でここは無限牢獄なのにテス姉とリオがいないんですか?」
ルイシャは今まで聞きそびれた事を桜華に聞く。
「ここは君がいた無限牢獄とは階層が違うの。ここは最も現実世界に近い『無限牢獄・第一層』。君や魔王がいたのは最も深い『無限牢獄・第三層』よ」
「ちょっと待って下さい! それが本当ならまだ僕が行ってない第二層があるってことですよね!? そこにも誰かいるんですか?」
「ええ、その通りです。しかし誰がいるかを君に話すことは出来ません。禁則事項なので」
「そ、そうなんですか」
ルイシャは落ち込む。
桜華さんは大事なことは教えてくれない。どうやら勇者に口止めされているらしい。
くそう勇者め。
「時にルイシャ君。君は外の世界で勇者の子孫と知り合いらしいですね。その子はどんな子なのですか?」
「へ? シャロの事ですか?」
桜華さんが質問してくるのは珍しい。
やっぱり自分の主人である勇者の子孫となれば気になるんだろうなあ。
僕はシャロのことを面白おかしく桜華さんに話した。
最初は険悪だったこととか、スゴい強いこと。今は親友になったこと。
そしてとてもいい子だということ。
僕の話を聞いた桜華さんは笑ったり驚いたりコロコロと表情を変えた。
初対面のときは冷たそうに見えたけど、最近はとても温和で優しい人だとわかった。
僕が話し終えると桜華さんは満足した顔になる。
「……ふう。そうですか。勇者の子孫は幸せに暮らしてるようですね。よかった」
「はい。僕もシャロの明るさに救われてます」
二人がそんなふうに他愛の無い話をしているとルイシャの体が透けて消え始める。
これは無限牢獄にいられる時間が終わった合図だ。
ルイシャが精神体で無限牢獄に入れる時間は現実世界で『1分』程度。これは無限牢獄の時間で言うと約6時間相当だ。
「どうやらそろそろお別れのようですね」
「はい。今日もありがとうございました」
「……これはあまり言いたくないのですが」
桜華は消えゆくルイシャに真面目な顔をして言う。
「ルイシャ、『創世教』に気をつけてください」
「創世教? なんですかそれは」
「詳しいことは私の口から話せません。しかし君が無限牢獄を開放しようとする限り必ず創世教と関わることになるでしょう」
そう語る桜華の顔は鬼気迫るものがありルイシャは緊張する。
こんなに強い桜華さんが警戒するほどの存在なのか、と。
「絶対に彼らを深く知ろうとしてはいけません。しかし警戒して下さい。さもなくば必ず足をすくわれるでしょう」
「わ、わかりました」
ルイシャがそう力強く返事をすると桜華は元の優しい顔に戻りルイシャを送り出したのだった。
《作者からのお願い》
作品を読んで「面白かった!!」「早く更新して欲しい!!」と思った方は広告の下にある評価欄の【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】にして頂けると
執筆の励みになります。
ぜひよろしくお願い致します。