第18話 特訓
無限牢獄で桜華と出会った日の朝。
ルイシャはバキバキに痛んだ体を引きずりながら目を覚ました。
体に傷は残ってなかったので精神体だけ無限牢獄に行っていたのは間違いないようだ。しかし消費した魔力や気功は間違いなく自分のもの。命を落としたら廃人になるのは本当だろう。
「剣術、勉強しなきゃな……」
ぼそりと呟く。
自分と同じ強さくらいだったら相手が武器持ちでも気功術で対処できる。
でも格上の相手だったら? 素手で戦うのはリスクが大きすぎる。
せっかくリオに竜王剣を貰ったんだ。剣の腕も磨かなくちゃ。
そう思い至ったルイシャはZクラス校舎前の開けたグラウンドに行く。するとそこには学園は休みだと言うのに朝早くから何人かのクラスメイトが集まっていた。
「おはよ!」
元気よく声をかけるとクラスメイトたちもそれに応じる。
ルイシャの仲の良い生徒はやることがないとここに集まって「ルイシャ塾」を行っている。
最初はルイシャが色々教えていたのだが最近は各自自分の得意分野を理解して伸ばす方法を見つけ始めたので、ルイシャが教えることは少なくなってしまった。
なのでルイシャ塾という名前はやめて欲しいとルイシャは言ったのだが、満場一致でその案は否決された。
「今日は来てるかな……あ、いた!」
ルイシャはその集団の中からお目当ての人物を見つけ駆け寄る。
「ちょっといいイブキ?」
「んあ? 珍しいっすねルイっちが俺っちに声をかけてくるなんて」
芝生に寝っ転がるのをやめ、起き上がりながら兜頭の青年イブキが答える。
王子の護衛である彼だがいつでもユーリのそばにいるわけではない。ユーリが城の中で書類作業などに集中したいときは追い出されるのだ。おしゃべりな彼がいると集中できないらしい。
「で? 俺っちに何の用っすか?」
「実は剣を教えて欲しいんだ」
「剣術を? ルイっちが剣とはこれまた意外っすね。それに俺っちよりシャロっちに教わった方がいいんじゃないっすか?」
「シャロにも聞くよ。でもイブキの剣術はシャロの攻めの剣と逆の守りの剣でしょ? 僕はどっちも覚えたいんだ!」
ふんす! とルイシャは意気込む。
その様子を見たイブキは「ふふっ、すごいっすね」と笑う。
「さすがウチの王子が目をかけてる男っす。その向上心は俺っちも見習わなくちゃいけないっすね」
イブキは素直に感心する。
自分の強さに驕ることなく上を目指すルイシャが彼には眩しく見えた。
剣の才に恵まれたイブキは稽古をサボりがちなところがあった。しかしZクラスに入って己の才能と向き合うクラスメイトたちを見て彼もこのままではいけないと感じ始めていた。
(みんな頑張ってるんだ。俺っちだって……!)
「おーけー、いいっすよ。俺っちの家に伝わる『護国奉王剣』ルイっちにお教えするっす。その代わりと言っちゃなんすが、魔法を教えてもらっても良いっすか?」
「僕は全然構わないけど、イブキが魔法って意外だね」
「はは、俺っちも皆んなに影響されちゃったみたいっすね。なんだか最近もっと強くなれるんじゃないかなって思えてきたんすよ」
そう言ってイブキは兜の下でニカっと笑う。
「そっか。じゃあ一緒に強くなろう!」
「おーし、程々に頑張るっすよー!」
「え!? ほどほどなの!?」
「え? ほどほどじゃないんすか!?」
驚くイブキの肩を掴みルイシャはにっこり笑いながら親指を立てて言う。
「大丈夫。人って意外と死なないから♪」
この後イブキはみっちりとルイシャに魔王式地獄の特訓を受けたのだった。