第17話 魔功一体
「気功術、攻式四之型『才気煥発』!!」
ルイシャがそう叫ぶと彼の体が金色に光り始める。
この技は己の気を消費し続ける代わりに身体能力を爆発的に上昇させる技だ。
ルイシャの気の量ではもって5分。しかしその間ルイシャは通常時より格段に強くなる!
「はあああああぁっっ!!」
今まで受け身だったルイシャの剣が徐々に攻撃に転じるようになる。
筋力だけでなく反射神経も上がってるので回避できる攻撃は回避し、その隙に攻撃しているのだ。
「ふふ、面白い。これならもう少し速くしても大丈夫ですね?」
そう言うと桜華の剣速がグン、と上がる。
もはや目で追うことは不可能な速さ。ルイシャは桜華の目の動き、体の重心、殺気、それらを読み取って攻撃を捌く。
しかし気功術の力を持ってしても全てを防ぐことは出来ず、何発か斬撃をくらってしまう。
「うぐぅ……まだ、まだぁ! 超位身体強化!!」
気功術と魔法の重ね掛け。
その効果は凄まじく、ルイシャは桜華の音速の斬撃を全て叩き落としてしまう。
「が、がああああっっ!!」
「なっ!」
ルイシャは渾身の力で桜華の刀を叩き落とし、桜華は小さく悲鳴を上げる。
するとこの戦いで初めて桜華が姿勢を崩した。
かつてない好機。これを逃したらもう勝機は訪れない!
全神経を集め、最高の一撃を叩き込む!!
「魔功一体……真・次元斬ッ!!」
ギリギリの中放たれたのは、魔力と気功を奇跡的なバランスで混ぜ込んだ正に至高の一撃。
ルイシャは初めて命の危機に立たされたことで今まで出来なかった魔功一体を成功させたのだ。
その技を見た桜華は優しい笑みを見せる。
「そう、それでいい。形に縛られない強さこそが君の強さ」
ルイシャの放った光り輝く斬撃が桜華を襲う。
しかし彼女は慌てることなく優雅に刀を構え、正面からその一撃を受け止める。
「桜華勇心流、桜襲」
刹那の内に放たれたる斬撃の雨。
それらは重なり合い、桜華を守る鉄壁の盾となる。
次元斬は桜襲を突破しようとギャリギャリ音を立てて削っていくが……桜襲の強度は凄まじく中々突破できない。
「う、うおおおおおおおっっ!!!」
魔力、気功、腕力、気合、思い。
持てる全てをぶつけるルイシャ。
肉体の限界を超えるほどの力を発揮し……ついに桜襲を突破する。
――――しかし、それが限界だった。
二人を遮るものはなくなった、しかしすでにルイシャには魔力も気功も無くなっていた。
とどめの一撃を加える余裕は、ない。
「くそ……一手……詰み、か」
意識を失い倒れるルイシャ。
しかしその体を桜華が優しく受け止める。
すると桜華の額にピッと薄く傷が付き一筋の血が流れる。
「ふふ、くらうつもりは無かったのですけどね」
ルイシャの攻撃は届いていた。
その事実に桜華は喜ぶ。
「……この小さな体でよくここまで頑張りましたね」
そう言って意識を失ったルイシャの頭を、桜華は優しく撫でる。
その瞳は慈しみに溢れており、まるで子を撫でる母のようだった。
「君の背負った運命はあまりに重く、そして過酷なもの。この先も困難が続くでしょう」
桜華はルイシャの前髪を上げ、まだ幼さの残る顔を覗き見る。
「どうかあなたに桜の祝福があらんことを。そして多くの者があなたを助けんことを」
桜華がルイシャの額に優しく唇をつけるとルイシャの体は光となって消え、元の体へ帰っていく。
その様子を見ながら桜華は呟いた。
「頼みましたよ。世界の命運は君にかかっています」