第5話 桜華の正体
「桜華さん。あなたも出ることができたんですね」
桜華を目にしたルイシャは彼女に一歩近づく。
しかしテスタロッサとリオが手を出し彼を制したことで二歩目が踏み出されることはなかった。
「ルイくん、気をつけて。あの人は普通じゃないわ」
「わしの本能がビンビン反応しておる。奴は危険じゃ」
二人の王は警戒しながら桜華を見る。
一見すると、桜華は華奢で儚げな印象を受ける。とても強そうに見えない。
しかしテスタロッサとリオは彼女の体に秘められた恐ろしい力を見抜いていた。
下手したら自分たちでも勝てないかもしれない――――そう思ってしまうほどのなにかを桜華は持っていた。
「……そもそもあなたは何者なの? 無限牢獄は勇者オーガが作り出した異空結界のはず。他人であるあなたが管理できるはずがない」
テスタロッサは言いながらティターニアに目を向ける。
「オーガの仲間だったあなたならなにか知っているんじゃない? この人が何者か。あなたの仲間だったの?」
「……わらわの仲間に桜華なる者はいなかった。わらわに言えるのはそれだけだ」
そう言ってティターニアは口をつむぐ。
なにか知っている……というよりなにかを『隠している』感じだとルイシャは思った。
全員が言う言葉を探し、沈黙が場を支配する。
その間、桜華はずっと申し訳なさそうに目を伏せていた。
やがて彼女が観念し、口を開こうとしたその瞬間、ルイシャが静寂を破り声を発した。
「僕にはあなたが何者か、分かる気がします」
その言葉に一同は驚く。
いったい桜華は何者なんだ、その場にいる者たちはルイシャの言葉に耳を傾ける。
「あなたは自分を『無限牢獄の管理人』と言いましたね。だから僕はあなたが最初、勇者オーガの仲間なのだと思っていました。しかしそれは違いました。勇者の遺跡には勇者の仲間たちが描かれていましたが、そこにあなたの姿はなかった」
オーガの仲間は三人。
三界王バルムンク。蛇王エキドナ。そして妖精王ティターニア。
仲間はそれぞれ獣人、蛇人族、エルフであった。オーガの仲間は本人を除いて人間以外の種族で構成されていたのだ。
しかし桜華はどこから見ても人間族である。その時点でオーガの仲間からは外れる。
「僕はそのことがずっと引っかかっていて、あなたが何者なのかずっと考えていた。ずっと答えは出なかったけど……無限牢獄を自分で作れるようになった時に、分かってしまったんです。あなたのことが」
そう静かに告げるルイシャ。
桜華はその言葉を黙って聞き、なにも喋らない。目は薄く空いていて、ルイシャの目をじっと見ている。
なにを考えているのか、他人からは全く量れない。
「あなたは……」
ルイシャは言いかけて逡巡する。
これを口にすればもう後戻りはできない。本当に言っていいのかと迷うが……ついにそれを口にする決心をする。
「桜華さん。あなたの正体は……勇者オーガですよね」
ルイシャの言葉にその場にいた者たちは「な……っ!?」と驚愕する。
消えたと思っていた勇者オーガが今ここにいて、しかも女性の姿をしているなど誰もそうぞうしていなかった。
「オーガは突然人前から消えて見つかることはなかった。でもそれも当然です。オーガはずっと無限牢獄の中にいたんですから。ここにいれば他の人に見つかることは絶対にない。それにほら、桜華とオーガって響きが似てますよね?」
「…………」
ルイシャの言葉を、桜華は否定も肯定もしなかった。
黙ってその言葉に耳を傾け、じっとしていた。
すると黙っていられなかったシャロがルイシャに近づいてくる。
「待ちなさいよルイ! その人が勇者オーガなんて私は信じられない! だって勇者オーガは男だったんでしょう!? それにオーガは凄い大男だったって話じゃない! その人とは似ても似つかないわ!」
「うん。確かにオーガは大男だと言われていた。でも彼は鎧と兜を常に身につけていて、その素顔を見た人はいなかったはずだよね?」
「そ、それはそうだけど。でも鎧じゃ体型をそんなにごまかせないわ。この人は痩せているし、大きな鎧を着て戦うなんてできないはずよ」
「普通の鎧だったらそうだね。でもオーガにはあの鎧があった」
「あの鎧……あっ」
シャロはなにかを思い出し、自らの左手を見る。
彼女の薬指にはめられている指輪。それに魔力を流すと、その指輪はガシャン! と漆黒の手甲に変形する。
『変幻自在の鎧』という名のその鎧は、使用者の意思によって形を自在に変えることができる鎧だった。
普通に使用すれば使用者の体にぴったりのサイズになるが、自分の体よりも大きくすることもできる。そうした場合にも魔法の力でいつも通り動くことができた。
つまりこの鎧を使えば……例え女性であっても大男のフリができるということになる。
それに気づいたシャロは驚いた表情で桜華を見る。
「ほ、本当にあなたが……勇者オーガで、私のご先祖様……なんですか……?」
問われた桜華はつらそうな表情でしばらく沈黙する。
永遠に感じる時間。
その果てについに彼女は絞り出すように声を出す。
「――――はい。私が勇者オーガです」





