第4話 王たちの帰還
「ルイくん!? やっぱりルイくんが助けてくれたのね……っ」
「なるほど、そういうことじゃったか。さすがはわしが見込んだ雄じゃ! 信じておったぞ!」
抱きついてきたルイシャを見て状況を理解した二人の王は、ルイシャの頭をワシワシとなで、再会を喜ぶ。
ルイシャは本当に二人がこっちの世界に来れているのかを確かめるように何度も彼女たちに抱きつき、その体を確かめる。
間違いない。二人とも脱出できている。
そう確信したルイシャの瞳に、涙が滲む。
「本当に良かった……ほんとうに……っ」
みんなが見ているにもかかわらず、ルイシャは泣きながら二人に抱きつき続ける。
本当に自分が二人を助けられるのかと、何度も不安になり、眠れない夜もあった。しかし彼はついにそれを成し遂げたのだ。
仲間たちもそれを理解しているため、彼の行動を茶化したりはしない。
「あの方たちが、魔王様と竜王なんですね。助け出せたのは嬉しいですが……なんだか妬けてしまいますね」
「ほんとよまったく。あんなに甘えちゃって。でもまあ……良かったわね、ルイ」
シャロとアイリスは再会を喜ぶ三人を温かく見守る。
「ふふ♪ それじゃあまずはなにからしましょうか? うーん……そうだ! 『魔王国』で大きな結婚式を開きましょう♪ 私の凱旋も兼ねて、国を挙げた一大行事にするの。挙式の日を祝日にするのもいいわね。そうすれば千年先でも国民はルイくんに感謝するわ」
「おいテスタロッサ! ルイはまずわしと『竜の里』に来るんじゃ! そしてわしと婚姻の儀を結ぶための試練を受けてもらう。成人した竜族1000人に素手で勝つ必要があるが……まあルイなら大丈夫じゃろう!」
「なによその野蛮な儀式は。やっぱり最初は大結婚式に決まりね。リオの儀式はその後にして」
「お主が後じゃ! ルイは里に来るんじゃー!」
解放されて早々に喧嘩する二人。
ルイシャはそんな二人の様子をしばらく微笑ましく見守っていたが、やらなきゃいけないことがあることを思い出し、二人を止める。
「二人を助けられて本当に良かった。本当はたくさんお喋りして、これからのこととかも話したいけど……実はそうも言ってられないんだ」
「……どうやらそうみたいね。空気が張り詰めていて、嫌な感じがする……こういう時はたいてい良くないことが起きるわ」
「む? そうなのか? まあ大丈夫じゃろう! なんたって竜王たるわしと、魔王がついているんじゃからな! どんな奴が相手だろうと敵じゃない!」
リオはテスタロッサの首に手を回すと、そう言って胸を張る。
魔王テスタロッサと竜王リオは、誇張ではなくこの世界で最高クラスの実力者だ。二人が仲間となってくれたことで、ルイシャは心が軽くなったのを感じた。
二人が一緒なら、どんな危機も乗り越えられる。そう思ったのだ。
「ルイシャ。感動の再会は結構だが、わらわたちの事を忘れてるんじゃないか?」
「そうだ。お前には私たちもついているんだからな」
続いて二人の人物が無限牢獄の中から出てくる。
鬼族の王サクヤと妖精王ティターニア。無限牢獄の第二層に囚えられていた王の二人だ。
二人はかつて瀕死のルイシャを救い、鍛えたことがある。共にいた時間こそ魔王と竜王に劣るが、ルイシャを助け導いた恩人であることに違いはない。
二人を見たルイシャは嬉しそうに顔をほころばせる。
「サクヤさんにティターニアさん! お二人も脱出できたんですね!」
「ははっ! まさかこんなに早く出られるとはな。どうやらレギオンとかいう野郎はちゃんと倒せたみたいだな」
「うむ。これもご主人さ……こほん、ルイシャのおかげだ。礼を言うぞ」
再会を喜ぶ三人。
そうしていると、テスタロッサとリオが近づいてくる。
「ルイくん、二人とはどういう関係なの?」
「あ、そうか。二人にはまだティターニアさんたちのこと言ってなかったね」
ルイシャはテスタロッサとリオにティターニアとサクヤのことを説明する。
無限牢獄に二人も閉じ込められていたこと。そしてルイシャが瀕死になり無限牢獄に入った後、彼を助け、更に修行をつけて強くしてくれたこと。
それらをルイシャは簡潔に説明した。
「なるほど、そういうことがあったのね」
「無限牢獄には他の者の気配もあったが、こやつらじゃったか」
納得するテスタロッサとリオ。
二人も無限牢獄にいながら、彼女たちのことを感じ取っていた。
「初めまして、鬼王サクヤと妖精王ティターニア。まずはルイくんを助けてくれて感謝します。ありがとう」
テスタロッサは素直に感謝の言葉を口にし、頭を下げる。
王の頭は軽くないが、彼女にとってルイシャの命はなにより大事なもの。頭を下げることに微塵の躊躇もなかった。
「あなたたちの名は魔王国にいた時に聞いたことがあるわ……どうやら二人とも、その武勇に違わぬ実力を持っているみたいね」
テスタロッサは二人を見ながら言う。
彼女たちの内包する魔力や気功力は、今まで会った他の王と比べてもズバ抜けて高かった。
圧倒的な強者のオーラ。自身の力に絶対の自信があるテスタロッサも、彼女たちに勝つには相応の代償を払う必要があると感じるほどであった。
「そなたが魔王テスタロッサか。わらわこそ会えて嬉しいぞ。ご主人さ……ルイシャが世話になったらしいからな。礼を言うぞ」
「いいえ、気にしないで。ルイくんは私の旦那様になる人なんだから当然よ」
「……ほう?」
「どうしたのかしら?」
バチバチと視線をぶつけ合うテスタロッサとティターニア。
このままじゃ喧嘩になっちゃうかもしれない。焦ったルイシャは二人の間に割り込む。
「ま、待って! 一旦僕の話を聞いてくれないかな?」
ルイシャはそう言って二人をなだめた後、説明を始める。
創世教のこと、シオンのこと、そして彼の考えた恐ろしい人類殲滅計画のこと。それら全てを聞いたテスタロッサたちは真面目な表情になる。
「そんなことがあったのね。それじゃあ残念だけど結婚式は先送りになりそうね」
「そうじゃな。神だかアホだか知らんが、わしらに喧嘩を売ったこと後悔させてやらんとな」
テスタロッサは冷静に、リオは拳を手の平にパシッと打ちながらそう言う。
突然現れた神という謎の存在に、少しも気後れしている様子はない。ルイシャは改めて二人が仲間でいることの頼もしさを痛感する。
「さて。それじゃあ早速この後の作戦を考えたいところだけど……その前にもう一人、話を聞いておくべき人がいるわね」
テスタロッサの言葉に、ルイシャは「え?」と声を出す。
いったい誰のことなんだろうと考えていると、テスタロッサたちが出てきた空間が再び歪み、そこからある人物が姿を現す。
長い銀髪に、細くすらりとした肢体。
手には長い刀を持ち、その目には憂いを帯びている。
「――――まさか本当に出られる日が来るとは。ありがとうございます、ルイシャ」
彼女の名は桜華。
自らを無限牢獄の管理人と名乗った彼女は、ルイシャだけが会ったことがある謎の女性だった。





