第3話 王国を護る者
「やれやれ、遅いですねえ」
王都から少し離れた場所で、レギオンは呟く。
逃走したシャロを追いかけ王都まで追いかけてきた彼は、王都から出てきた兵にシャロを引き渡すよう書かれた書状を渡した。
その書状は法王国が作成した正式なものであり、それを無視すれば国家間の問題にまで発展してしまう。
少女一人渡して穏便に済ませられるのであれば、渡して済まそうとするのが普通だ。
「まあ私としては少し暴れたいですが……あの方をお待たせするのも申し訳ない。どちらにせよ早く終わらせたいですね」
一人そう呟いていると、王都の正門から兵が数人出てくる。
その前から正門には大勢の兵士がおり、レギオンがこれ以上王都に近づくのを阻止していた。
「……あなたは?」
レギオンは自分に近づいてくる大柄の騎士に尋ねる。
「我が名はエッケル・プロムナード。そなたがレギオン殿でよろしいか?」
「ええ、そうですよ。それにしても……ほう、あなたが『王国の盾』ですか。会えて光栄ですよ」
エッケルを見たレギオンは楽しげに呟く。
王国の盾の評判は近隣の国まで届いていた。平民の出ながら、剣の腕一つで国王の片腕までのし上がった騎士。
どのような人物なのか一度会ってみたいとレギオンは思っていた。
「なるほど、優れた戦士ではあるみたいですが……凡人ですね」
「それくらい私が一番分かっている。しかしそれは私が諦める理由にはならない」
エッケルは剣を抜き、レギオンの前に立ちはだかる。
それを見たレギオンは眉をピクリと動かす。
「それがフロイ国王の返事、ということでよろしいですか? 子ども一人守るために創世教を敵に回すなど、懸命な判断に思えませんが」
「それは私の台詞だ。このような蛮行を働けば他の国も黙っていない」
「ふふ……構いません。審判の日は近い。いくら騒ぎ立てたところであなたたちにはなにもできませんよ」
邪悪な笑みを浮かべるレギオン。
それを見たエッケルは胸の奥がざわつくのを感じた。
「審判の日だと? どういう意味だ」
「あなたが知る必要はありませんよ……どうせここで死ぬんですからねぇ!」
レギオンは話は終わりとばかりに駆け出すと、エッケルめがけて頭突きを繰り出す。
エッケルは手に持っていたタワーシールドを構え、その一撃を受け止める。
ガチィン! という金属音と共にレギオンの攻撃が受け止められる。エッケルはそのまま盾を振ってレギオンを吹き飛ばそうとするが、
「こっちですよ」
「な……!?」
いつの間にかレギオンが反対側にも現れた。
エッケルは瞬間移動したのかと思うが、まだタワーシールドにはレギオンの頭突きが当たっているままだ。
(これが報告にあった分裂能力か! どういう仕組みか全く分からん!)
レギオンと一度戦闘したアイリスは、その能力について知っていることを全て報告していた。しかし王国の所有している知識を動員しても、その能力の謎を解き明かすことはできなかった。
百戦錬磨であるエッケルも、実際に見てもその能力を理解することはできなかった。
「隙だらけですよ……!」
レギオンの頭突きがエッケルの脇腹に突き刺さる。
エッケルはなんとか踏みとどまるが、その衝撃は凄まじく痛みに顔を歪める。
「こ、の……っ!」
エッケルは剣を振るいレギオンを斬り伏せる。
しかし次の瞬間には二人のレギオンが襲いかかってきてしまう。それらを倒したら更に倍の数のレギオンが。
その理不尽さにエッケルの表情が曇る。
「か、加勢するぞ! 我らも戦うんだ!」
王国騎士団、そして王都の兵たちがエッケルの助太刀に入る。
しかしそんな彼らの前に立ちはだかるように、無数のレギオンが出現する。
「この……化け物め!」
「これ以上王都に近づけはさせんぞ!」
兵たちは立ちはだかるレギオンに斬りかかる。
兵の練度は高く、一対一であればレギオンと互角の勝負ができる程度の力量があった。しかし、
「よく訓練されている。ですが私とあなた方では――――兵力が違う」
無尽蔵に出現する軍勢の前に、兵は一人、また一人と倒されてしまう。
今まで対峙したことのない本物の化け物を前に、兵たちの士気も落ちていく。そして兵の勢いが落ちたことにより、レギオンは徐々に王都に近づいていってしまう。
「させ――――るか!
騎士団長エッケルは付きまとってくるレギオンを振り払うと、王都に接近するレギオンの群れに近づこうとする。しかしそれをレギオンが許すはずがなく、彼は足止めされてしまう。
「行かせませんよ。あなたはここで王都が滅ぶ様を見ていてください」
「貴様……っ!」
怒りに燃えるエッケル。
しかしいくら怒ったところで急にパワーアップできるわけではない。
エッケルが焦燥していると、突然王都に近づいていたレギオンの群れが、爆発音と共に吹き飛ぶ。
「……なにが起きたんですか?」
思案するように呟くレギオン。
先ほどの爆発まるで砲弾が打ち込まれたかのような威力だった。しかしいくら焦っているといえど王国が兵が集まっている場所に砲弾を打ち込むはずがない。
いったいなにが起きたのだと考えていると、
「ふっ、来てくれたか」
騎士団長のエッケルがそう呟く。
その言葉を耳にしたレギオンは彼に詰め寄る。
「どうやら知っているようですね。いったいなにをしたのですか?」
「私が言わなくても今に分かる。あまり我々を――――王国を舐めるなよ」
エッケルはレギオンを睨みつけながらそう言うと、剣を振るい斬り伏せるのだった。





