第2話 書状
レギオンからシャロたちが敗走した日の翌日の昼下がり。
王都に近づく人影に、兵士の一人が気がついた。
「ほ、報告! 何者かが王都に接近してきます!」
「すでに冒険者ギルドと商会には王都へ接近禁止命令を出している……奴と見て間違いないだろう」
「他に人影は見られませんが、いかがいたしましょうか?」
「手筈通り私が行く。陛下にもすぐに報告に行ってくれ」
シャロを狙う者が王都に向かっていることは、すでに王都の兵は知っていた。
王都の入り口は固く閉ざされ、中に入ることも外に出ることも禁じられていた。公には『危険なモンスターが現れたから』と説明されていたが、兵の顔に浮かぶ緊張感から、国民はただごとではないと察していた。
「陛下。レギオンと名乗る者から書状が届きました」
「……そうか。見よう」
王都に近づく者が現れて数分後。国王フロイのもとに一通の書状が届けられた。
それはレギオンと接触した兵が受け取った物であり、フロイに宛てられたものであった。
フロイの側に控えていた騎士団長エッケルは書状を見ると、驚いたように目を見開く。
「陛下、その書状の封蝋は……」
「ああ、これは法王国の印章だ。どうやらそのレギオンという者は本当に法王国の者らしいな」
フロイは書状を開き、目を通しながら呟く。
法王国アルテミシア。
大陸南部に存在するアルテミシアは、創世教を信仰している国家だ。
国民の九割が創世教の信徒であり、中心地である聖都は創世教の聖地とされている。
「陛下、書状にはなんと?」
「勇者の末裔シャルロッテ・ユーデリアの身柄の引き渡しを要請する、正式な書状だ。ご丁寧に法王直筆の物……どうやら法王国は本気なようだ」
「な……!?」
フロイの言葉にエッケルは絶句する。
創世教にはきな臭い噂が前からあった。自分たちに敵対する者は人知れず消している、裏の組織と繋がっている……といった、ありきたりな陰謀論的なものだ。
しかしそれらはあくまで噂であり。創世教は表では清廉潔白な組織として通っていた。争いごとは避け、人々の幸せを願う組織、そういう皮を被り続けていた。
だがここに来て創世教はその皮を脱いででもシャロの身柄を取りに来た。
「表向きの理由は保護。この先起こると予言された災いに勇者の血が関係しており、災いを避けるためにも彼女の身柄を預かると書かれているが……十中八九嘘だろう」
「なるほど……厄介ですね。しかしレギオンなる者はいつの間にこの書状を用意したのでしょうか?」
「おそらく最初から持っていたんだろう。この短い間に法王国に戻るのは不可能だ。逃してしまった時のことまで予想して、用意していたんだ。必要になるか分からない者をわざわざ法王に用意させているところから見るに、奴の創世教内での権力はかなり高いようだな」
そのような者を追い返すような真似をすれば、間違いなく国際問題となる。しかしここでシャロを渡してしまえば、取り返しのつかない状況になる。フロイの勘がそう言っていた。
「わざわざこんな物を用意してもらって悪いが、私の考えは変わらない。エッケル、戦闘の準備を頼む」
「かしこまりました陛下。お任せください」
相手はルイシャすら倒した得体の知れない相手。
しかしエッケルはフロイの命を迷うことなく引き受けた。
「すまんな」
「なにをおっしゃいますか陛下。この身はすでに陛下と国に捧げております。謝る必要などございません」
この戦いが命を落とす可能性が高いものであることは、二人とも理解していた。
しかしそれでも戦わなければいけない時がある。エッケルの覚悟はとうにできていた。
「安心してください陛下。ご存知の通り私は頑丈ですし、心強い味方もおります。必ずや生きて帰ってきます」
「ああ……そうだな。信じているぞ」
再会を約束し、別れる両者。
一人の少女をかけ、過酷な戦いが幕を開けようとしていた。
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