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第11話 私だって

 ルイシャとサクヤの二人がティターニアを襲ってから少しして。

 三人はティターニアの家から外に出て、無限牢獄のどこまでも白が続く空間に立っていた。


「はあ……面倒くさい。なんで私が稽古など……」


 妖精王ティターニアは心底面倒くさそうにため息をつく。

 するとそれを見た鬼王のサクヤがそれを窘める。


「くどいぞ妖精王。ルイシャに『なんでもしますから最後までしてください♡』と頼んだのはお前じゃないか。貴様も王紋を持つ者であるなら、約束は守れ」

「た、確かにそう言ったが……お前だって途中から混ざって楽しんでいたではないか!」

「それはそれだ。私だってルイシャの師になるのだから権利はある」


 腕を組みながら言い放つサクヤ。

 その堂々とした様にティターニアはそれ以上文句が言えなくなる。


「何度も言っているが稽古なんて無駄だ。あのオーガですらできなかったことを」

「しょうがない。ルイシャ、やってやれ」


 この後に及んで手を貸すことを渋るティターニアを見て、サクヤはルイシャに合図を出す。

 言う事を聞かなかった場合にはこうしろ、と事前に言われていたルイシャは申し訳なさを感じつつも、心を鬼にしてティターニアの大きなお尻を思い切り平手打ちした。


「ひぃうん゛!?」


 スパァン! という大きな音と共にお尻を叩かれ、ティターニアは悶絶しその場に倒れ込む。その動きこそ痛そうであったが、表情は恍惚としていた。


「こ、こんなことしてわらひが言うことを聞くと思って……」

「ルイシャ、もう一発やってやれ」

「はい」

「ん゛ひぃ♡!?」


 再びお尻を叩かれたティターニアは体をびくん! と跳ねさせ甘い悲鳴を上げる。

 はあ、はあ、と息を荒くさせる彼女を見て、ルイシャは引きつった表情をする。


「うわあ……」

「まさか妖精王がここまでの変態とはな。少々心苦しくはあるが、利用できるものは全て利用するべきだ。さて、この変態エルフは放っておいて、まずは私たちで特訓をするとしよう」

「はい。よろしくお願いいたします」


 ルイシャは緊張した面持ちでサクヤに向き直る。


「私は難しい技はさっぱりだ。レギオンとやらを倒す方法は後でそこの変態に聞いてくれ。その代わり私はルイシャの『肉体』を強くしてやろう」


 サクヤは自分の両の拳をガツンとぶつけ、得意げに言う。


「鬼の技を人が会得した全例はないが……魔王と竜王の技を会得したルイシャなら、きっと可能だろう。無論楽にはいかんだろうが、覚悟はできているな?」

「はい……よろしくお願いいたします!」


 威勢よく答えるルイシャを見て、サクヤは嬉しそうに笑う。

 こうしてルイシャの二回目の無限牢獄の修行は始まったのだった。


◇ ◇ ◇


 ――――王都、夜。


 王城の中にある客室の一つ。

 そこのベッドの上で一人の少女が目を覚ましていた。


「んん……ここは……?」


 桃色の髪を揺らしながら体を起こしたのは、勇者の末裔シャロであった。

 レギオンとの戦いで逃走を拒否した彼女は、ルイシャによって奴隷紋の力を行使され逃走を強制された。


 しかし彼女はその強い精神力によって奴隷紋の力に耐えてしまい、その結果体に負荷がかかり意識を失ってしまった。

 今までの戦闘で溜まっていた疲労のせいもあり、そこから夜の今までずっと彼女は意識を失ってしまっていたのだ。


「私は確か蛇人族ラミアの里にいて……そうだ、あの獣人が襲ってきて……」


 シャロは混乱しながらも記憶を必死に辿る。

 そしてついに自分がどうやって意識を失ったかを思い出す。


「そうだ! ルイシャはどこ!? 私はなんでこんな場所で寝てるの!?」


 シャロは勢いよくベッドから飛び降りようとするが、その体がガシャ! と音を立てて止まる。なんだと思い自分の体をよく見てみると、シャロの手に『かせ』がはめられており、それとベッドが鎖で繋がれていた。


「なによこれ……っ!」


 シャロは体に力を込め、枷を外そうとするが、その頑丈な枷はガシャガシャと音を鳴らすだけで傷すら入らない。

 鎖も同様でまったく壊れる気配がない。


「どうして!? なんで壊れないのよ!」


 手枷を壁にぶつけるなどしてみるが、金属音が鳴り響くだけでヒビも入らない。

 魔法を使おうと魔力を練ってもみるが、魔法を使う前にその魔力は霧散してしまう。こんな経験は初めてだった。


「いったいなんで……こんなとこで止まってるわけにはいかないのに……!」


 シャロがそこから必死に抜け出そうとしていると、部屋の扉がガチャリと開く。

 そして中に入って来たのはシャロがよく知る人物であった。


「……目覚めましたか、シャロ」


 入って来たのは吸血鬼のアイリスであった。

 最近は昔よりも表情が豊かになってきた彼女であったが、今の彼女は昔のように冷たい顔をしていた。


「アイリス、これはどういうこと!?」

「それは王国が所持している特殊な枷らしいです。魔力を練るのを阻害し、上手く力が出せなくなるそうです。申し訳ないですが事が終わるまでそれをつけていてください」

「はあ!? なに言ってんの! これを早く外しなさい!」

「それはできません。食事を置いておきますので、ここで静かにしていてください」

「ふざけないで! 早く行かないとルイが!」


 シャロは枷をガシャガシャと鳴らしながら大きな声を上げる。

 そんな興奮した様子の彼女とは対照的に、アイリスは非常に静かであった。まるで感情の一切を失ってしまったのかのような、人形のような印象を受ける。


「あんたも分かってんでしょ!? ルイが本当に死んじゃうかもしれないのよ! 早くあそこに戻らないと!」

「……私はルイシャ様に逃げるよう命じられました。そしてシャロ、あなたを無事に逃すことも。なのであなたの言うことを聞くことはできません」


 淡々とそう述べるアイリスを見て、シャロは信じられないといった顔をする。

 少しの間呆然とした彼女は、やがて胸の奥からふつふつと湧いてきた怒りに任せて言葉をぶつける。


「あんた……本気でそれ言ってんの!? 命令を守るためならルイが死んでもいいって言うの!? そんな風に考えていたなんて見損な……」


 まくし立てる様に言っていたシャロであったが、アイリスの表情を見てその口が止まる。

 アイリスは表情こそ変えていなかったが、その目から静かに涙を流していた。


「私がルイシャ様が死んでもいいと思ってるですって……? そんなこと……そんなこと、思っているわけないでしょうが!!」


 突然語気を荒げたアイリスはシャロに詰め寄ると、彼女の襟元をつかむ。

 至近距離に近づいたアイリスの顔は、涙でぐしゃぐしゃになっていた。


「私だってルイシャ様に死んでほしくない! 本当なら全てを投げ捨てて助けに行きたい、最後までお側にいたい! でも、でも……愛する人が私を信じてしてくれたお願いを、無下にできるわけがないじゃないですか……」


 襟をつかむ手から力が抜け、アイリスの腕がだらんと垂れる。

 シャロはアイリスの目元に何度も泣いたような跡があることに気がつく。アイリスも何度も苦悩し、その末にここにいるのだ。


「アイリス……」

「私だってあなたの様にわがままに言えたらどれだけ幸せだったか! ルイシャ様はあなたの為に、あなたを助けるために一人残られてたというのに……っ。それなのにあなたは勝手なことばかり……」


 アイリスは言いながらシャロの胸に顔を埋め、肩を震わせ泣き崩れる。

 それを見たシャロは自分の軽率な言動に反省し「……ごめん」と呟く。


「ルイ……お願いだから死なないでいて……」


 シャロは泣き続けるアイリスの体をなでながら、愛する者の無事を祈るのだった。

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