第10話 妖精王を攻略せよ
「ほう、あの呪いを解いたか……どうやら少しは見込みがあるみたいだな」
ベッドの上で寝そべりながらそう呟いたのは、無限牢獄第二層にいる妖精王ティターニアであった。
優れた感覚能力を持つ彼女は、家の外で起きていることも正確に把握していた。
「私も見たことがない魔法……興味深いな。あの少年の肉体には魔王と竜王の力が宿っていた、おそらくそれを使ったもの、か」
ティターニアはごろりと寝返りをうつ。
「だが……まだ未熟だ。あの子が戻っても滅びは免れない。ならばここに留まっていた方がいい。ここにいれば安全なのだから」
ティターニアは「ふあ」と大きなあくびをすると、目を閉じる。
「眠くなってきたな……少し寝るとしよう」
長い引きこもり生活のせいですっかり自堕落になってしまった彼女は、睡魔に身を委ねる。そして少しするとすやすやと寝息を立てるのだった。
◇ ◇ ◇
「……むにゃ?」
ティターニアが眠ってから数分後、彼女は体に違和感を覚えて夢の世界から戻って来る。腕や足がいつもと違う方向に曲がっているように感じた。
ベッドから落ちたか? そう呑気に考えながら目を開けると、そこには自分の体を押さえつけている鬼王サクヤの姿があった。
「目を覚ましたか妖精王。邪魔しているぞ」
「な、なんだ!? なにをしておる!!」
突然のことに驚き、暴れるティターニア。
しかしサクヤの怪力は凄まじく、その拘束はビクともしなかった。魔力による力の底上げも行ったが、呪いが解け全盛期の力を取り戻したサクヤの怪力には遠く及ばなかった。
「いったいなにをする気だ! なにが狙いでこんなことをする!」
「お前にもルイシャの力になってほしいんだ」
「な、なに!? だったらなんでこんなことを! こんな狼藉を働いて、私が力を貸すと思ったか!」
「お前は力を貸すさ。よいしょ、っと」
サクヤは言いながら器用に体を動かし、体勢を変える。
するとサクヤが寝ているティターニアの背後に回り、背中側からその両足を抱え上げる形となる。当然ティターニアは足を大きく広げてしまい、恥ずかしい体勢になってしまう。
しかも足を開いた先には……今まで様子を伺っていたルイシャがいた。
「な、なんて格好をさせ……って、貴様、なにを見ている! やめろ、見るなぁ!」
「す、すみません!」
妖精王のあられもない姿を見て、ルイシャは視線をそらす。
しかしこの作戦を立てたサクヤはそれを咎める。
「ルイシャ、こいつの力を借りたいなら目を逸らすな。なに、嫌がってはいるが、こいつも内心喜んでいるはずだ」
「ほ、本当ですか……?」
「ああ、なあ妖精王」
サクヤは得意げに尋ねる。
するとティターニアは顔を真っ赤にしながらそれに反論する。
「そんなわけないだろうが! こんなので喜ぶのは変態だけだ!」
「……そのような口を聞いていいのか? 私はお前の性癖を知っているんだぞ?」
「え゛」
その言葉にティターニアの動きがピタリと止まる。
そして顔に汗をだらだらと流し、明らかに動揺している様子を見せる。
「い、いいいいいったいなんのことだ」
「知っているんだぞ、お前が一人で自分を慰めていることは。そしてその時に可愛らしい少年を想像していることを」
「な、なななな……っ!!」
サクヤの口から語られるまさかの言葉に、ティターニアは顔から火が吹き出そうになる。
ここまで動揺した様子を見られたら、もういくら否定しても遅い気がするが、しかしそれでもティターニアはそれを認めなかった。
「な、なにを言っている! う、ううう嘘をつくな!」
「エルフほどではないが、私も耳はいい。家の中からお前の嬌声をよく聞いていたぞ」
「な、なななな……!!」
「恥じることはない。誇り高き妖精王と言えど、欲求からは逃れられない。まあ年端もいかぬ少年にしか興奮できないのは少し引くが……」
「ま、待て! それは、それだけは否定するぞ! そんな嗜好は持ち合わせておらん!」
「やれやれ、強情だな。私がなにも知らないと思ったら大間違いだぞ」
サクヤは呆れたようにそう言うと、片手を動かしベッドをひょいと持ち上げる。
するとその下から少年のイラストが描かれた本が大量に現れる。その少年は全て可愛らしく、そして服をまとっていなかった。
「たいしたもんだ、これほどの量を自分で描いたとはな」
「あわ、あわわわわ……」
白目を剥き気を失いかけるティターニア。
もはや弁明する力など残っていない様子だ。
サクヤはその本の山からひょいと一冊手に取ると、感心したように言葉を続ける。
「描いていることは外から聞こえた音で知っていたが、これほど上手とはな。ほらルイシャ、この絵なんてお前そっくりだ」
「わ、ほんとですね。まさかティターニアさんにこんな趣味があったなんて……」
「殺せ! 私を殺してくれ!」
ティターニアは羞恥のあまり暴れるが、サクヤが再び両手でがっしりと押さえつけたことで動けなくなる。
「さあルイシャ、思い切りやるといい。お前の力で手籠めにしてやるんだ」
「え、でも本当にいいんですかね……?」
「当たり前だ。この変態も内心ではそれを望んでいるはずだ」
サクヤの言葉にティターニアは「誰が変態だ!」と返すが、二人ともその言葉には反応しない。
ベッドの下の惨状を見れば、彼女が変態であることを疑う余地はないからだ。
「迷っている暇はないぞ。今こうしている間にも、お前の大切なものに危機が迫っている。とっととこいつを屈服させて、言うことを聞かせられるようにするんだ」
「…………分かりました。すみませんティターニアさん、やらせていただきます」
「え、え、え」
ルイシャの覚悟が決まったような表情を見て、ティターニアはおおいに焦る。
寝起きかつ秘密を暴露され混乱していることで魔法も上手く使えない。ここから逃げることは不可能であった。
「それでは失礼します。痛いようにはしませんので」
「ほう……なかなか立派だな」
「ちょ、や、やめ……あああああっ!?!?!?」
響き渡るティターニアの絶叫。
その後数時間、ルイシャの言う事をなんでも聞くと言うまでひたすら彼女は快楽の暴力を受け続けたのだった。