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第8話 鬼王の正体

「じょ、女性だったんですか……?」


 久々に鎧を脱ぎ、気持ちよさそうに伸びをするサクヤに、ルイシャは尋ねる。

 そんな質問が来るとは思っていなかったのか、サクヤは「ん?」と首を傾げる。


「ああ……そうか、鎧で隠れていたから分からなかったのか。しかし声で分かったんじゃないか?」

「いや、鎧を着ていた時は今よりずっと声が低かったんですよ!」

「そういえばあの兜は口のところに穴がほとんど空いてなくて、上手く喋れなかったな。そのせいで声が変になっていたのか」


 ははは、とサクヤは笑う。

 鎧の下のサクヤは、鍛え抜かれた肉体の、美しい女性であった。

 極限まで絞られた肉体に無駄な脂肪は一切なく、強者の風格を漂わせている。そしてその右肩には鬼族最強の証である『鬼王』の王紋が刻み込まれていた。


「それにしても……中々いい男じゃないかルイシャ。今までは兜のせいでよく見えなかったが、好みの面構えだ」

「え、えっと」


 サクヤに顎をクイっと持ち上げられ、ルイシャは恥ずかしそうにする。

 このままだと押し倒されてしまいそうな空気を感じ取ったルイシャは、その手を逃れて少しだけ距離を取ると話題を強引に変える。


「でも……良かったです。もうこれで呪いの鎧に悩まされることはありませんね」

「ああ、ルイシャには本当に感謝している。これからはお前の盾となり剣となろう。命じてくれればなんでもこなしてやろう」

「……え?」


 サクヤの言葉にルイシャは困惑する。

 感謝してくれることは嬉しいが、あまりにもその対価が大きすぎると感じた。


「あの、そこまでしなくても……」

「鬼族はなによりも仁義を重視する。受けた恩は何倍にもして返すのが決まりなのだ。私を苦しめ続けた呪いを解除してくれたルイシャは、私の一番の恩人……であるならば命を賭して助力するのは当然だ。さあ、私になにをしてほしい、なんでも言うといい!」


 サクヤは興奮した様子でルイシャに詰め寄る。

 その大きく張りのある胸の中に顔を埋める形になったルイシャは必死にもがくが、サクヤの怪力のせいで抜け出すことはできなかった。


「さ、サクヤさん、当たって……」

「ん? どうした赤くなって。ほう……なるほど、そうかそうか。そっち(・・・)が望みだったか。ルイシャも年頃の男ということか。いいだろう、男を知らぬうぶなる体ではあるが、好きにするがいい」

「ちょ、落ち着いてください!!」


 服を脱がされそうになるルイシャは、気功術を駆使して無理やり脱出する。

 自分の拘束から抜け出したルイシャを見て、サクヤは半分感心半分残念といった表情をする。


「つれない奴だな。私を好きにできるなど、他の鬼族全員が羨むぞ? それとも私のような女は好みでなかったか?」

「い、いえ、そんなことはありません。サクヤさんはとても魅力的な方とは思いますが、今はそれよりも脱出することを優先したいんです。力を貸してくださるなら、その手伝いをしていただけませんか?」

「恩人がそう言うなら仕方ない。今はルイシャがここを脱出することを第一目標にするとしよう」


 落ち着いたサクヤを見て、ルイシャはほっと胸をなでおろす。

 とにかく心強い味方ができたのは確かだ。鬼王が全力で手伝ってくれるのであれば、ここから脱出することもできるかもしれない。


「それで私はどうしたらいい? なにかいい考えはあるか?」

「そうですね……まずはティターニアさんから剣を取り返さないといけないと思います。サクヤさんならあの人から剣を取り返せませんか?」


 無限牢獄に穴を開ける『次元斬』を使うには竜王剣が必要だ。

 まずはそれを取り返す必要があった。


「呪いが解けた私であれば、妖精王と互角に渡り合えるだろう。剣を取り返すことも可能だろう」

「本当ですか!? なら……」

「しかし、それでは本当に帰るだけしかできない。お前は本当に今のまま帰って、レギオンとやらに勝てるのか?」

「そ、それは……」


 ルイシャはその質問に口ごもる。

 自分を圧倒的な力で倒したレギオン。ルイシャはまだその力の解明すらできていない。このまま戻っても勝てる確率が低いことは、彼自身よく分かっていた。


「正直、どうすれば勝てるのかまだ分かりません。でもこのままだと僕の大切な人がみんないなくなってしまいます。それなのにここでなにもせずジッとしていることなんててできません!」


 強い決意を目に宿らせながら、ルイシャはそう言い放つ。

 その言葉を受けたサクヤは楽しげに笑みを浮かべると「そうか」と口にする。


「ならば|倒せるようになってから《・・・・・・・・・・・》ここを脱出すればいい。幸いここなら時間の流れは遅いし、鍛えられる者も二人・・いる」

「二人……ですか?」

「ああ、あそこにいるじゃないか。お前より強い奴がな」


 サクヤは後方に存在する一軒家を親指で指す。


「え、もしかしてティターニアさんのことを言ってますか?」

「ああ、私も色々教えられるが、そのレギオンとやらを倒す方法は思いつかない。だが妖精王は魔法の造詣が深いからな、きっとそいつを倒す方法も知っているだろう」


 かつてルイシャは無限牢獄で二人の師匠に鍛えられた。

 それを師を変えてもう一度やろうと言うのがサクヤのアイディアだった。


 サクヤとティターニアはテスタロッサとリオと同格の力を持ちながら、違う系統の能力を持っている。もしその力も物にできれば、ルイシャは大幅なパワーアップができるだろう。


「私と妖精王の二人がかりでお前を鍛え上げれば、すぐにそいつを倒せるようになるだろう。どうだ、いい案じゃないか?」

「確かにそれはとてもいい案だと思いますが……ティターニアさんが素直に力を貸してくれるとは思えませんよ」


 ティターニアはルイシャの傷を治してくれたが、同時に脱出の鍵である竜王剣を奪った人物でもある。力を貸してほしいと頼んで、素直に貸してくれるとは思えなかった。


「そうだな。あいつも長いことここにいるせいで心がひねくれてしまった。簡単に力を貸してはくれないだろう」

「だったらどうやって……」

「簡単な話だ。言って聞かないのであれば、無理やり(・・・・)話を聞かせればいい。あいつを襲うんだよ」

「お、襲う!?」


 サクヤのまさかの提案にルイシャは驚愕する。

 まさかそんな物騒な案が出てくるとは思わなかった。


「襲うってそんなことしちゃ駄目ですよ! それにそれで勝ったとしても、ティターニアさんが言うことを聞いてくれるとは思えません!」

「おい、勘違いしているぞルイシャ。襲うと言っても武力で言うことを聞かせようとしているわけじゃない」

「え? じゃあ襲うってどういうことですか?」


 困惑しながら尋ねるルイシャ。

 するとサクヤはにやりと笑い、自信満々の顔で答える。


「決まっているだろ、夜這い(・・・)だよ。あいつをお前のとりこにして、言うことを聞かせられるようにするんだ」


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