第6話 鬼王の実力
元の世界に帰る方法を失ってしまい、うなだれるルイシャ。
どうしたらいいんだと悩んでいると、ある人物が近づいてくる。
「どうした。大丈夫かルイシャ」
「サクヤさん……」
話しかけてきたのは鬼王のサクヤだった。
呪いの兜のせいでその表情は見えないが、心配してくれているようだ。
「どうやら上手くいかなったみたいだな。なにがあった?」
「実は……」
ルイシャは家の中でなにがあったのかサクヤに話した。
全てを聞き終えたサクヤは「そうか……」と呟く。
「妖精王の態度には問題があるが、言っていることに筋は立っている。ルイシャがレギオンに勝てないのであれば、ここから出ても無駄死にするだけだ」
「で、ですけど、こうしている間にもみんなに危険が……」
「分かっている。だからこそ急いでお前は強くならなければいけない。幸いなことに無限牢獄は時間が緩やかに流れる。強くなる最低限の時間くらいは確保できるだろう」
無限牢獄で一年過ごしても、外では一日しか経っていない。
レギオンが王都までどれくらいで移動できるかは不明だが、それでも一年くらいは修行に費やすことができると思われた。
「ここで出会えたのもなにかの縁だ。私で良ければ稽古をつけてやろう」
「い、いいんですか?」
「鬼に二言はない。動けばなにか名案も浮かぶかもしれん。さあ、かかってこい」
鬼王サクヤは棍棒の先端を地面に突き立てて置くと、素手で構える。
サクヤとの特訓でレギオンに勝つ方法が思い浮かぶかは分からない。しかしティターニアに追い出された今の状況で他に頼れる人もいない。
ルイシャは立ち上がって水を振り払うと、同じように拳を構える。
「それでは、胸を借りさせていただきます」
「ああ、来るといい」
ルイシャは地面を蹴り、サクヤに接近する。
そして拳を固く握り、思い切り殴りかかる。
「気功術攻式一ノ型、隕鉄拳!」
地面を陥没させるほどの威力を持つ、必殺の拳が放たれる。
それを見たサクヤは「ほう」と感心したように言うと、その一撃を頭部に生えた角で受け止めた。
「えっ!?」
「いい拳だが……それだけだ。それでは私や妖精王には通じない」
サクヤはルイシャの拳を角で受け止めたまま、右の拳を固める。
そして目にも留まらぬ速度で拳を振るい、ルイシャのボディを殴りつける。
「――――んがっ!?」
ルイシャは咄嗟に腕を挟み込みサクヤの拳を防御する。
挟み込むと同時に気功と魔力で腕を防御するのも欠かさない。しかしそれにもかかわらずルイシャの左腕には物凄い負荷がかかる。
「う、ぐ……っ」
殴られたルイシャは地面を転がった後、ゆっくりと立ち上がる。
防御した左腕は腫れ上がり、まともに動かすことができなくなっていた。
たった一撃。
しかもちゃんと防御したにもかかわらず、すでに満足な戦闘は不可能になっていた。
(強い……! これが特別な力を持った王の力……!)
ルイシャは外の世界でも王紋を持った者を何人か見てきた。
剣王クロムに七海王シンディ、そして海賊王のバット。その誰もが紛れもない強者であったが、鬼王は彼らと次元の違う強さを持っていた。
比較ができるのは魔王テスタロッサと竜王リオくらいのもの。同じ王紋の持ち主でもここまでの差があるのかとルイシャは驚愕する。
「どうした、まだ休憩はするには早いぞ」
「……っ!!」
一気に距離を詰めてきたサクヤはルイシャに鋭い拳を放つ。
なんとか反応したルイシャは動かない腕を庇いながら、なんとか回避する。しかし回避に徹してもサクヤの速く的確な攻撃を避け続けるのは難しい。
(このままじゃ当たるのは時間の問題だ! それにこの膨大な気の量……一発でもまともに食らうのはまずい!)
命の危機を感じ取ったルイシャは、避けるのをやめ立ち向かうのを決める。
体のリミッターを全て外し、一気に勝負を決しに行く。
「魔竜モード、オン!」
ルイシャの体から漏れ出た魔力と気功が、角と尻尾、そしてマントの形になる。
魔族と竜族の力を同時に宿したルイシャは、サクヤに襲いかかる。
時間制限こそあるが、この状態のルイシャは普段の数倍の力を得ることができる。しかし、
「甘い」
サクヤは殴りかかろうとしてくるルイシャに高速で接近すると、振り上げている右手首と左肩をガシッと掴む。
そして鬼の剛腕を振るい、ルイシャをそのまま地面に叩きつける。
「が――――ッ!?」
まるで巨大な大地で殴られたかのような衝撃。
全身に深いダメージを負ったルイシャは、その場にぐったりと倒れる。それと共に魔竜モードも解け、いつもの姿に戻ってしまう。
「さあ立てルイシャ。まだ稽古は終わりじゃ――――ん?」
サクヤは稽古を続けようとするが、そこでルイシャが意識を失ってしまっていることに気がつく。数度ベシベシと頬を叩くが、ルイシャは完全に気を失い起きることはなかった。
「ふむ……久々の稽古で盛り上がりすぎたか。反省しないとな」
サクヤは反省したように呟くと、その場に座りルイシャが目覚めるのを待つのだった。