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第5話 妖精王

「妖精王ティターニア……!」


 その名を聞いたルイシャは驚き声を上げる。

 妖精王ティターニア。それは勇者オーガの遺跡に記されていた、勇者パーティの一人の名前だ。

 ルイシャは彼女がエルフであると気づいた時、もしかしたら彼女は妖精王なのではないかと一瞬考えた。

 しかしいざ実際にそうだと言われると、驚きが隠せなかった。


「なぜ妖精郷の長である貴女が無限牢獄ここにいるのですか?」

「その様子だとエキドナから全てを教わった訳ではなさそうだ。あいつがしくじるとなると、外は余程危険みたいだな」

「……僕がエキドナさんと知り合ったことも知っているんですか?」

「エルフの耳は千里先の兎の足音すら聞き逃さない。あの鬼となにを話していたかくらい、知っている」


 ティターニアはベッドにぼふっと寝そべり直すと、説明を始める。


「未来予知で世界の危機を視たエキドナは、それを回避する方法も予知した。『五人の王、力を合わせし時、しんなる王、しんおうとなりて世界を救う』……それがエキドナの予知の力を最大限まで高めた時に視ることのできた唯一の言葉だ」

「五人の王? しんおう? いったいそれはどういう意味なのですか?」

「さあな。エキドナの力をもってしてもその予言が頭に浮かんだだけで、明確なイメージまで視ることはできなかった。それほどまでに未来に希望はないんだろうな」

「そんな予言があったんですね……。それでなんでティターニアさんは無限牢獄に入ることになったんですか?」

「予言を聞いたオーガは『五人の王』を集めることを決意した。そうすれば自分が予言の『しんなる王』になれると信じてな。五人の王が誰を指すのかは分からなかったが、それはきっと強力な力を持つ王の持ち主だとオーガは考えた。だから……」

「その『五人の王』の一人だと考えられた貴女を、この無限牢獄に入れて保護した。そういうことですか?」

「勘がいいな。話が楽で助かる」


 感心したように頷くティターニア。

 一方その答えにたどり着いてしまったルイシャは、他の事にも気づいてしまい衝撃を受けていた。


「……この無限牢獄の他の層には、魔王と竜王も閉じ込められています。もしかして二人も同様の理由ということでしょうか?」

「ほう、魔王と竜王が。強い魂の持ち主がいるとは思ったがそのような大物まで、オーガも頑張ったな」


 その返答はルイシャの問いを肯定するに等しかった。

 なにも言われずこの無限牢獄に捕らえられたテスタロッサとリオ。二人は予言を実行するためにここに囚われていたのだ。

 そしてきっと、外にいる鬼王も呪いを解くためだけでなく、保護する意味合いも込めて無限牢獄に入れられたのだろう。


 ずっと知りたかった謎をついに突き止めたルイシャ。

 しかしその答えを知った今、新たな疑問も浮かんでくる。


「じゃあなんで二人は……いえ、貴女方を含めた四人は三百年間ずっと無限牢獄に囚われたままなんですか? 勇者オーガは貴女方を閉じ込めたまま、なにをやっているのですか!」


 ティターニアに詰め寄り、ルイシャは叫ぶ。

 彼女に強く言っても仕方がないことは分かっていたが、その怒りを抑えることはできなかった。

 勇者のせいで愛する二人は理由も分からず無限牢獄に囚われ続けている。彼女らのことを思うと冷静でいることなど不可能であった。


「ち、近いわ! 一旦離れろ!」


 超近距離で問い詰められたティターニアは、焦ったようにそう言うと生足でルイシャを押して下がらせる。

 距離を取って「ふう……」と落ち着いた彼女は、ルイシャの問いに答える。


「オーガが来ない理由だが……私にも分からない。しばらくここにいてくれと言われたきり、奴にはあってないからな。だが推測することならできる」

「推測? いったいどういう理由だと思うのですか?」

「簡単な話だ。あいつは……『失敗』したのだ」

「な……っ!?」


 失敗。

 勇者とは似つかわしくないその言葉にルイシャは驚愕する。

 確かに勇者が失敗したとなれば、現状の全てに説明がつく。


「オーガは予言に従い、強力な力を持つ王を集めた。妖精王である私と鬼王、そして魔王と竜王をな。その王を脱出不能の空間『無限牢獄』に幽閉し、安全を確保した。そして五人の王が集まったら全てを説明し力を貸してもらうつもりだったのだろう。しかし……」

「その過程で失敗した――――そういうことですか?」

「ああ、そうでなければ説明がつかない。あいつは頑固で義理堅い性格だった。理由も説明せずこの様なことはしない。おそらく王を集める過程で失敗し、命を落としたのだろう。馬鹿な奴だ」


 そう語るティターニアの言葉には、どこか寂しさのようなものが感じ取れた。

 長い間閉じ込められている彼女だが、オーガに対する仲間意識は捨て切れてはいないようだ。


「これが私の知っている全てだ。私も最初の数百年は魔法の研鑽をしながら、オーガが来るのを待っていた。しかしもう諦めた(・・・)。私はここで永劫に続く時をダラダラと怠惰に過ごすことに決めたのだ」


 そう言ってティターニアはベッドの上でぐでっとする。

 妖精王である彼女が引きこもりになってしまったのにはそういう理由があったのかとルイシャは納得する。

 ここ無限牢獄では時間がゆっくりと進み、ここでの一年は外の一日に相当する。つまり外の世界で三百年経っている間に、無限牢獄の中では十万年以上の時が時が経っていることになる。


 それだけの時間、なにもない空間にいたら常人であれば精神を病んでしまうだろう。引きこもりになる程度で済んでいることに驚くべきであろう。


「…………」


 そんな彼女を見て、ルイシャは落胆したような気持ちを覚える。

 彼を育てた魔王も竜王も、この空間に閉じ込められてもくさることはなかった。だからこそ同じ王でありながらこうなってしまった彼女に、マイナスな感情を抱いてしまう。


 しかしそれは自分の勝手な期待であることもルイシャは理解していた。

 彼は物申したくなる気持ちを心の底に沈めると、気になっていたことを尋ねる。


「僕は死に瀕した時にここにやって来ました。なんでここに来たのかは分かりますか?」

「それは知らん。だがお主は無限牢獄と深いところで結びついている。命の危険が訪れるとここに再び来るように、誰かが仕込んだのかもな」

「誰かが……」


 そう聞いた時に頭をよぎったのは無限牢獄の管理人、桜華だった。

 ここを管理している彼女ならそれが可能かもしれない。今度会ったらお礼を言わないと、とルイシャは思った。


「色々教えてくださりありがとうございます。それではそろそろ僕の『剣』を返していただけますか? それを使って僕はここから脱出します」

「脱出して、どうする?」

「え?」


 ティターニアの問いにルイシャは困惑する。

 閉じ込められたのなら脱出したいと思うのは当然のこと。そこに疑問を持たれるとは思わなかった。


「当ててやろうか。脱出したお前は王都に向かい、お前を打ち倒した者に再び挑むつもりだろう」

「それは……そうなると思いけど。あいつは僕の大事な人を傷つけようとしています。それだけじゃありません、あいつはなにか良くないことを考えていると思うんです。放っておいたら王国だけじゃなく、僕の住んでいる大陸全土に良くないことが起きる気がするんです。それを見過ごすことはできません」


 ルイシャは真剣な表情で答える。

 こうしている間にも、レギオンはシャロの命を狙い動いている。仲間が上手くやっていれば王都に逃げることに成功しているだろうが、それだけで安心はできない。

 レギオンは自分の体を無数に増やすことができた。あの能力を使えば単騎で王都を制圧する(・・・・・・・・・・)こともできるだろうとルイシャは考えた。


 もしそうなってしまったら、被害は甚大だ。シャロだけでなくアイリスやヴォルフ、他のクラスメイトも命を落としてしまうだろう。

 それだけは避けなければいけなかった。


「見過ごすことはできない、か。しかし今のお前は向かってどうなる。生き返っただけで強くなれるわけではない。また行ってもむざむざと殺されに行くようなものだ。せっかく命を救ってやったというのに、そんなに簡単に捨てさせるわけにはいかんな」

「じゃあ……じゃあ、僕の大切な人たちを見捨てろと言うんですか!?」

「そうだ。無駄に死ぬくらいなら見捨てた方がずっとマシだ」

「……っ!!」


 ルイシャは怒りに満ちた目でティターニアを睨みつける。

 しかし彼女はそれを一切意に介さず、涼しい顔をしている。


「あなたには心がないんですか?」

さえずるなよ小僧。私はお前と違って冷静にものを見ているだけだ」


 そう言うとティターニアは豊満な胸の谷間から、金色に輝く牙の形をしたピアスを取り出す。ルイシャはそれが竜王剣のピアスであることにすぐ気がつく。


「なにも私は意地悪をしているわけではない。エキドナが生かしたお前を意味もなく死なせるわけにはいかないだけだ。お前がそのレギオンとかいうのに勝てると私が思えば、返してやらんこともない」


 ティターニアは挑発するようにピアスを揺らしながらルイシャを見る。


「少なくとも私から竜王剣これを奪い返せなければ、話にならないな」

「……分かりました。そういうことでしたら」


 ルイシャはふっと体の力を抜いたかと思うと、勢いよく地面を蹴り一瞬でティターニアに接近する。

 そして右手を前に出し、揺れる竜王剣のピアスに手を伸ばすが、その手はピアスの数センチ手前でピタリと止まってしまう。


「……!?」

「舐めるなよ少年。お主の前にいるのは妖精王ティターニアぞ」


 気づけばルイシャの体を包み込むように風のころもが出現していた。

 それがルイシャの体をその場に固定しているせいで、動くことができなくなっていた。


(これは魔法!? でも魔法を発動した様には全く見えなかった……!)


 困惑しながらルイシャは必死に体を動かそうとする。しかし風の衣はルイシャの剛力にもビクともしなかった。


「これがお主の実力ということ。少し頭を冷やしてくるといい」


 そういうとティターニアは指先から物凄い勢いの『水』を噴出させる。

 その水はルイシャの体に命中すると、その体を吹き飛ばし家から追い出してしまう。


「ぶっ――――いだ!?」


 びしゃびしゃになったルイシャは家の扉から外に転がり落ちる。

 彼が体を起こすと、まるで侵入を拒否するのうにバタン! と扉が勢いよく閉じる。どうやら本当にルイシャを元の世界に帰らせてくれる気はないようだ。


「そんな……どうしたらいいんだろう」


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