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第4話 謎の家主

 ――――時を同じくして、無限牢獄。

 鬼王サクヤと話したルイシャは、謎の人物が住まう家の前に来ていた。


(……いったいどんな人が住んでいるんだろう)


 扉の前に立ったルイシャは、緊張した面持ちで扉に手をかける。


 この無限牢獄は、勇者オーガが生み出したもの。

 中に閉じ込められている人物はみな、オーガが封印するべきと認識した存在しかいない。


 つまり中にいる人物は、例外なく『強い』ということになる。

 ルイシャがいくら腕を上げたとは言え、まだテスタロッサやリオに勝てるほどではない。下手に刺激し敵対してしまっては最悪命を落とすことになる。


 いくら自分の命を救ってくれたとは言え、細心の注意を払う必要がある。

 ルイシャは深呼吸して気持ちを落ち着けると、扉をコンコンとノックする。


「あ、あのー。どなたかいらっしゃいますか?」


 刺激しないよう中に呼びかける。

 しかしいくら待っても返事は返ってこない。


「留守……ってことはないよね」


 周囲に他に家のようなものはない。

 無限牢獄から出られない以上、ここの家主が家の外にいる可能性は低い。


 勝手に入るのは気が引けたが、ルイシャは意を決してドアノブに手をかける。するとガチャ、という鍵が開く音がする。


「鍵が開いた? 入れってことなのかな」


 ルイシャはおそるおそる扉を開け、中に入る。


「おじゃましまーす……」


 扉の隙間から中を覗いたルイシャはぎょっとする。

 その小屋の中には本や瓶などが散乱し、足の踏み場もないほど物で溢れかえっていたからだ。


 床に落ちている物を踏まないよう、家の中に入っていくと、唯一物があまり散乱していないベッドの上で、なにかがもぞもぞと動く。


「ふあ……ようやく起きたか。ひとまずは死ななかったみたいだな」


 ベッドの上で面倒くさそうに体を起こしたのは、見目麗しい絶世の美女であった。

  腰まで届く、瑞々しい森のような緑髪は、まるで朝露をまとっているかのようにキラキラと輝いている。

 透き通るように白い肌に、翡翠のように澄んだ緑色をした大きな瞳。そしてルーズな部屋着の上からでも分かる、しなやかな肢体。

 だらしない格好をしているにもかかわらず、作り物かのように美しく整った容姿をしている彼女に、ルイシャは目を奪われてしまう。


 そんな彼女のことをじっと観察したルイシャの視点が、ある一点で止まる。

 それは彼女の『耳』。ふわふわの髪の切れ目から覗く彼女の耳はツンと尖っていた。

 魔族の中には耳が尖っているものもいるが、ここまで鋭角に尖っている種族はあまりいない。そしてその特徴を持つ種族にルイシャは心当たりがあった。


「エルフ……!」


 エルフ。

 それは森の奥地に住んでいると言われている、神秘の種族。

 長く尖った耳を持ち、男女問わずその見目はとても麗しいと言われている。


 御伽話にもよく登場し、その知名度は非常に高い。

 しかしその知名度に反し、エルフに出会った人はほとんど存在しない。彼らは森のなかで人目を忍んで暮らしており、生涯森の外に出ることはない。

 ゆえにエルフを見る機会はなく、実在するのか疑っている者も多くいる。


「まさかエルフを見る日が来るなんて。確かに伝承通り綺麗な人だけど……」


 ルイシャは目の前でだるそうに「ふあ……」とあくびをする彼女を見て、少しだけがっかりする。

 エルフといえば神秘的で近寄りがたい、高潔な存在といったイメージだ。しかし目の前の彼女は顔こそ整っているがとてもだらしなかった。

 綺麗な髪は手入れされておらずぼさぼさ。服はだらしなくよれており、口元にはよだれの痕が残っている。これだけだらしない姿にもかかわらず美しさを保っているのは奇跡と言っていいだろう。


 しかしいくらだらしないといっても相手は命の恩人、ルイシャは背筋を正し、その人物に話しかける。


「あの、貴女が僕を助けて下さったんですか?」

「ああ……そういうことになるな。一度体を離れた魂を再接続し、肉体に定着させ直すのは非常に難しい。私でなければ君を蘇生させるのは不可能だったろうな」


 彼女がどのような方法で蘇生してくれたのかは分からなかったが、きっとそれはとても高度な蘇生術なんだろうとルイシャは推測する。

 その証拠にレギオンとの戦闘で負った傷は全て綺麗に塞がっており、痛みも残っていない。それは回復魔法を得意とする同級生、ローナでも到底真似できない『神技』と言えた。


「助けていただきありがとうございます。僕はルイシャと言います。良ければ名前を教えていただいていいですか?」

「ふうむ……」


 エルフの女性はジロジロとルイシャを観察する。

 その鋭い視線に、ルイシャは蛇に睨まれたカエルの様に硬直する。


「このように――な者が本当に――なのか?」

「え? なにか言いましたか?」

「いや、なんでもない。独り言だ。それより私の名前が聞きたいのだったな?」


 エルフの女性はルイシャの目を正面から見据え、名乗る。


「我が名はティターニア。妖精郷の統治者にして、全てのエルフと妖精の上に立つ『妖精王』だ」

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