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第1話 再起

 最後に覚えているのは、全身を襲う激しい痛みと、口の中に広がる血の味。

 死ぬっていうのはこんな感じなんだ、と冷静に考えながらルイシャは最期の一撃を食らった。


 その後のことは覚えていなかった。立たなくちゃ、戦わなくちゃと思ったが、体も頭も動きはしなかった。

 完全に意識を手放す直前に彼が思ったのは……悔しいという気持ちだった。


 僕にもっと力があれば、あいつを倒せたのに。

 僕にもっと力があれば、大切な人たちを守れたのに。


 しかしいくら悔やんでも、時は戻らない。

 ルイシャは敗北し、そして死んだはずであった。


 死んだ人は生き返られない。それが世界の常識だ。魔王と竜王の力を継いだルイシャでもそのルールからは逃れられない。


 だから彼が再び思考ができるようになっているのも、きっとなにかの間違いなんだろう。そうに違いない、と彼は考えていたが――――


「……あれ? 手がある」


 目線を下げると、自分の手が視界に入った。

 それだけじゃない。手も足も体も、全て付いている。しかもあれだけボロボロだったというのに全て元の綺麗な状態に戻っている。


 しかし戻っているのは体だけ。他の景色は一面真っ白であり、どこまでもなにもない景色が広がっていた。


「ここが死後の世界? いや、この感じは……」


 ルイシャはこの真っ白な世界に見覚えがあった。

 それは勇者の作り出した結界『無限牢獄』の中。かつて魔王と竜王とともに長い時を過ごした空間にそこは酷似していた。


「どうして僕が無限牢獄に? 死んだはずじゃ……」


 辺りをキョロキョロと見回すルイシャ。

 真後ろにも視線を向けると、そこには何者かが立っていた。


「わっ!?」


 謎の人物の登場に驚くルイシャ。

 そこに立っていたのは、赤い鎧で全身を覆った人物であった。鎧は特殊な造りをしており、王国のものとは見た目がかなり違った。ルイシャは知らなかったが、それは東の地で好んで使われる『具足』と呼ばれる鎧であった。


 具足に身を包んだその人物の背は高く、2メートルは超えている。腕と足も太く、見るからに強そうな人物であった。手にはその巨躯に見合った大きな金棒があり、それの先を地面につけて立っていた。


 顔は兜で覆われていてその下を拝むことはできなかったが、その佇まいからその人物が歴戦の戦士であることが窺えた。


「目覚めたか、少年」

「わ!?」


 突然鎧の人物が喋り、ルイシャは再度驚く。

 兜の下から聞こえてくる声はくぐもっており、性別や年齢の判別はつかない。


「少年。お主か、私の待人まちびとは」

「え、いや……分からないです。た、多分違うと思いますけど」

「そうか……」


 鎧の人物は残念そうにそう言うと黙ってしまう。

 完全な静寂が訪れ、ルイシャはどうしたらいいか困ってしまう。


(この人、誰だろう? ここは無限牢獄っぽいけど、テス姉とリオの気配は感じられないんだよね……。怖いけどこの人に話を聞くしかないかあ)


「あ、あの。ここはどこですか?」

「ここは勇者オーガの作り出した『無限牢獄』の中だ」

「っ! やっぱりそうだったんだ……!」


 ここが死後の世界でないことが分かり、ルイシャはひとまずホッとする。

 以前無限牢獄の管理者、桜花は言っていた。

 無限牢獄には三つの層があると。

 その内の一つは桜花がいる第一層。そしてもう一つは魔王テスタロッサと竜王リオがいる第三層。残る最後の層は不明であった。


 きっとこの層が不明だった最後の層、第二層だ。ルイシャはそう考えた。


(だけどなんでこの層に来たんだろう? それにこの人は誰……? 敵意はなさそうだけど)


 ルイシャは目の前の人物を観察するが、答えは出ない。

 なるべく刺激しないよう気をつけながら質問を続ける。


「あの、すみません。貴方はどなたでしょうか?」

「私はサクヤ。鬼族を束ねる者、鬼王だ」

「貴方が鬼王……!?」


 ルイシャはその称号に聞き覚えがあった。

 屈強な肉体を持ち、素手で竜種と渡り合う種族、鬼。

 その中でも一際強力な力を持つ者のみが『鬼王』を名乗ることが許されると言われている。


 そもそも鬼族はとても珍しい種族であり、ヒト族の暮らす場所には姿を表さない。

 人が暮らせないような過酷な環境に少数で暮らし、ひたすら己の力を磨くことに生涯を捧げる種族なのだ。


 よく見れば兜から生えている角は、兜を突き破り下から伸びているように見える。大きく立派な一本角は鬼族の特徴。鬼族であることは間違いないようだ。


「なんで鬼王の貴方が無限牢獄にいるのですか? 貴方も勇者オーガに封印されここに閉じ込められたのですか?」

「確かにここに私を封印したのは勇者だ。しかし私は自ら望んでここに入ったのだ」

「え? どういうことですか?」

「私の身につけているこの鎧は『呪いの鎧』なのだ。一度着れば脱ぐことができず、更に数年に一度暴走し周囲の者を傷つけてしまう。ゆえに私は鬼族どうほうから離れ、一人で暮らしていた。そんな折出会ったのだ、勇者とその仲間の蛇人族ラミア、エキドナにな」

「勇者と……エキドナさん!?」


 まさかの名前にルイシャは驚く。

 鬼王からその名前を聞くことになるとは想像もしていなかった。

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