第13話 数は力
次々と襲いかかってくるレギオンの群れ。
ルイシャたちは武器を手に取り無数のレギオンに立ち向かう。
「はああああっ!!」
竜王剣を横薙ぎに振るい、一気に三人のレギオンを斬り倒すルイシャ。
しかし三人倒したらその後ろから六人。それらを倒しても更に十人を超えるレギオンが次々と襲いかかってきて息つく暇もなかった。
それはシャロとアイリスも同じであり、仲間のサポートに回りたくても圧倒的な物量に押され、自分の前にいる敵を倒すので精一杯であった。
「囲まれたら危ない! 背後を取られないよう気をつけて!」
「分かってるわよ! でもこいつら……多すぎる!」
ルイシャの言葉にそう返すシャロ。
三人はなんとか戦えてはいたが、すでに顔には疲労の色が浮かんでいた。
なんの前触れもなく四方八方から現れ、容赦なく襲いかかってくるレギオン。一人一人の力はそれほど強くないが、あまりにも数が多すぎる。
息つく暇もなく戦い続けなくてはいけないため、その精神的負荷は一対一の戦いの比ではない。
(このままじゃ体が持たない! なにか、なにかこいつを倒す方法は……!)
ルイシャは戦いながら頭を巡らせる。
戦っている内に相手の能力のことが分かるかもしれないと思っていたが、いくら戦っても相手の能力はさっぱり分からなかった。
相手の能力が仮に王紋由来だったなら、エキドナがやったように「紋章対消滅」で相手の王紋を消すという手段もある。
しかしルイシャの持っているのは「将紋」。その紋章の力では同じ将紋しか消すことはできない。
ルイシャは自分で相手の能力を見極めるしか道がなかった。
「もしかしたら幻覚魔法なのかもしれない。だったら……」
幻覚魔法の中には、幻の中で起きたダメージを実際に負ってしまうものもある。レギオンがそういった魔法の使い手である可能性は高いように思えた。
ルイシャは一旦レギオンたちから距離を取ると、両手を合わせて自身に薄い魔力を纏わせる。
「魔装結界!」
ルイシャは自分の全身を包み込むように結界を纏う。
通常幻覚魔法は術者の魔力を相手の体内に流し込み、幻を見せる。なのでそれを解くには相手の魔力を自分の体内から排出する必要がある。
魔装結界。肌からほんの数ミリ浮いたところに展開されたその薄い結界に防御能力はない。
しかしその結界内部を自分の魔力で満たすことにより、結界内の異物……つまり他者の魔力を排出することができる。
ルイシャはこの技でレギオンのやっていることを暴こうとした。しかし、
「駄目だ、消えない……!」
魔装結界を展開してもなお、大量に出現したレギオンは消えずそこにいた。つまりレギオンは幻覚ではなく現実にそこにいることになる。
アテが外れ、ルイシャは一層険しい表情を浮かべる。
「いい着眼点ですが残念でしたね。私たちはちゃんとここにいます。絶望せずに色々試すのもいいですが……あまり時間はありませんよ?」
レギオンがそう言うと、他のレギオンがあるものを持ってきてルイシャに見せつける。
なんとそれは痛めつけられぐったりしたシャロとアイリスであった。体中に痣があり、何度も痛めつけられたことが見て取れる。
「なかなか強かったですが所詮は子ども。貴方の方ばかり気にしていたので隙を突くのは簡単でした」
「お前ぇ! その手を離せ!」
傷ついた二人を見て、ルイシャは激高する。
体中から魔力と気を放ちながら突進するルイシャ。その行手を阻むようにレギオンたちが現れるが、ルイシャはスピードを緩めずその中に突っ込む。
「気功術攻式一ノ型、隕鉄拳!」
気功の力が込められた正拳がレギオンに叩き込まれる。
その破壊力は凄まじく、一発で無数のレギオンが吹き飛び、地面には陥没穴ができる。
巻き起こる砂煙の中を進んだルイシャは、シャロとアイリスを掴んでいるレギオンを蹴り倒し、二人を救出する。
「大丈夫二人とも!?」
「ごめんルイ、しくったわ……」
「役に立てず申し訳ありません……」
ルイシャの回復魔法を受け、なんとか回復する二人。
しかし二人とも見るからに苦しそうである。レギオンとの戦いはつらさよりも苦しさが大きい。倒しても倒しても湧き出てくる敵、それらとずっと戦っているとまるで水の中にいるかのように息苦しくなる。
このままでは体力がなくなるより先に、心が折れてしまいそうであった。
「二人とも、休んでいた方が……」
「なに言ってんのよ。あんた一人にあんなのと戦わせられるわけないじゃない」
「シャロの言う通りです。まだやれます……!」
なんとか立ち上がるシャロとアイリス。
本当は休んでいてほしかったルイシャだが、二人の気持ちを無下にすることはできなかった。
「分かった。一緒に倒そう!」
ルイシャの声をきっかけに、三人は再びレギオンの群れに突っ込んでいく。
力の限り戦い、知恵を絞り、考えられる手段を全て講じる三人。
しかし……それら全ては徒労に終わってしまう。
彼らのアイディアや技の全てはレギオンに通じず、意味をなさなかった。
諦めず手を変え品を変え、ルイシャたちは力を合わせて戦うがその体力は次第に底をついてくる。その隙をレギオンは見逃さなかった。
「羊頭突駆」
レギオンの一人が、ルイシャの横腹に勢いよく頭突きをいれる。その攻撃はただの頭突きではなかった。魔力でアフロを硬化し、更に角を伸ばして攻撃力を上げている。
「が、あ……っ」
一瞬だけ意識が飛びそうになるルイシャ。
しかし彼はなんとか力を振り絞りその場にとどまると、突進してきたレギオンを竜王剣で斬って倒す。
「おや、よく耐えましたね。たいしたものです」
「ぜえ、ぜえ……」
なんとか耐え切ったルイシャ。
しかしもう……誰の目から見ても彼の体力は限界であった。