第4話 未来を視る者
「未来が視えるですって? そんなの反則じゃない……!」
エキドナの言葉に動揺するシャロ。
アイリスも言葉こそ発していないが、その表情は険しい。いったいそのような相手にどうやったら勝てるのか。考えても答えは出ない。
しかしだた一人ルイシャだけは諦めていなかった。
「諦めちゃ駄目だ! もし未来予知が絶対のものなら、わざわざそれを僕たちに言う必要はない! 未来は変えられるはずだ!」
「……ほう、中々頭が回る」
エキドナは感心したように呟く。
事実彼女の未来を視る能力『未来視』は絶対のものではなかった。
世界を構成する様々な物質の流れを『視る』ことによって、次に起きる出来事を予測。その繰り返しにより起きる確率が高い事象を魔法によって導き出すことが未来視の正体だ。
ゆえに不測事態が起きれば未来は変わる。
しかしエキドナは今まで自分の視た未来が変わったことなど、ほとんどなかった。それほど彼女の視る未来の精度は高い。
「今までだって厳しい戦いはいくつもあった……今回もそれと同じだ!」
ルイシャは竜王剣を強く握り、再びエキドナに斬りかかる。
しかし未来を視ることのできるエキドナは、その斬撃を見ることもせず回避してしまう。
ルイシャはそれでも果敢に斬りかかるがこちらの攻撃は当たらず、逆に尻尾による反撃を受けダメージを負う。
「くっ! 強い! だけど負けるわけにはいかない……!」
剣の動きが読まれることを察したルイシャは一度剣をしまい、全力で駆ける。
身軽になったルイシャは振るわれる曲剣と尻尾の攻撃をすり抜けるように回避すると、エキドナの体に肉薄する。
「気功術、攻式二ノ型、水振頸!」
ルイシャはエキドナの腹部に掌底を叩き込む。
その攻撃は振動を相手の内部に打ち込む打撃技。エキドナは魔力の鎧で体を覆っていたが、気功による攻撃は魔力で防ぎづらい上に、この技は防御を無視する特性を持つ。
女性の体で筋力が落ちているルイシャであるが、この技は柔らかい筋肉の今の方が高い威力を発揮することができた。
これらの要素が複合することで、エキドナはかなりのダメージを負った。
「が、あ……っ!?」
「効いてる。ならもう一発……!」
ルイシャはすぐにもう一発を叩き込もうとするが、その一撃は再び未来を視たエキドナに回避されてしまう。
「未来がブレて来たな……矯正が必要だ」
その表情に焦りの色を浮かばせるエキドナ。彼女の見る未来は変わり始めていた。
一度変化した未来が再び変わる確率は、限りなく少ない。エキドナは敗北を回避するために多くの未来を観測し、その中でもっとも勝率の高いものを見つけ出す。
「これならどうだ!」
エキドナは尻尾を高速で動かし、ルイシャの体に巻き付ける。
未来視は回避だけでなく、攻撃にも活用できる。ルイシャの動きを先読みし、移動先に攻撃をしかけたのだ。
「ぐ……っ!」
「蛇人族の筋力は非常に高い。そしてその筋力は体の大きさに比例し更に高くなる。剣をしまったのが裏目に出たな」
エキドナが尻尾に力を込めると、ルイシャは更に顔を歪める。
この状態では剣を出すこともできない。人質を取られた状態になってしまったのでシャロとアイリスも動けずにいた。
「どうした、もう手も足も出ないか?」
「いえ……まだまだこれからですよ……!」
ルイシャはそう言うと魔法を発動する。
発動したのは攻撃魔法でも防御魔法でもなかった。その魔法は自分の身にかけられた魔法効果を『解除』する魔法。
今ルイシャの身にかけられた魔法は「性転換魔法」のみ。それが解除されればもちろんルイシャの体は男性へと戻る。
「はあっ!!」
「なっ……!?」
男性の体に戻ったルイシャは全身に力を込め、尻尾による拘束を力ずくで解いてしまう。突然のパワーアップにより、エキドナの視た未来が崩れ去る。
ルイシャは彼女が動揺している隙を突き、再び接近すると固く握りしめた拳を放つ。
「気功術攻式一ノ型、隕鉄拳ッ!!」
まるで隕石が落下したかのような爆音とともにエキドナに命中する正拳突き。
その一撃をもろに食らったエキドナの巨体は吹き飛び、屋敷の壁に激突するのだった。