第3話 蛇王エキドナ
「はあっ!」
エキドナは二振りの曲剣をルイシャたちに振り下ろす。
その剣はエキドナの体の大きさに合わせて作られており、非常に巨大だ。柄まで合わせると10メートルはあるだろう。
二階建ての建物に匹敵する大きさの刃物が襲いかかってくると言えば、その恐ろしさが分かるであろう。
しかもエキドナの剣技は研ぎ澄まされており、その剣閃は早く、正確であった。ルイシャたちは回避するのがやっとで中々反撃に出られずにいた。
「これならどうだ! 超位火炎!」
ルイシャは巨大な火炎を手から発射し、エキドナを攻撃する。
しかしエキドナが曲剣を振るうと、その炎は簡単に両断されてしまう。
「我が曲剣は魔法に強い耐性を持っている。それしきの魔法では煤一つつかんぞ!」
エキドナの言ったことは本当であり、ルイシャが違う属性の魔法を使ったり、アイリスが血液魔法を使っても簡単に斬られてしまう。
三人はじりじりと壁際に追い込まれ、窮地に立たされる。
「ちょっとルイ! どうすんの!?」
「ひとまず懐に潜らないと……魔法じゃどれだけやっても効果はなさそうだし」
幸いエキドナは露出の高い服を着ており、鎧に身を包んでいない。
下半身の蛇の部分は鱗が覆っているが、上半身の人間の部分であれば攻撃は有効そうだ。
しかしそこにたどり着くまでに曲剣の攻撃をかいくぐらなければいけない。どうすればいいだろうと考えていると、アイリスが一歩前に出る。
「私とシャロで曲剣の動きを止めます。ルイシャ様はその隙に本体に攻撃を」
「え、でも危険じゃ……」
「安全にこの場を切り抜ける方法などありません。それにこれしきのことでヘマはしません、そうですよねシャロ?」
「ええ、アイリスの言う通りよ。そんくらい私たちに任せなさい。あんたは前だけ見てればいいわ」
「二人とも……分かった。二人を信じるよ」
作戦を立てたルイシャたちは、エキドナに向き合う。
覚悟の決まった三人の顔を見たエキドナは楽しげに笑う。
「もう話は終わったのか?」
「はい、申し訳ないですが、貴女を倒してここから出ます」
「ふふ……面白い。やれるものならやってみるといい!」
エキドナは曲剣をまるで蛇のように滑らかに動かし、ルイシャに襲いかかる。
一方ルイシャは足に力を込め、一気に駆け出す。
防御を捨てた、速度に特化した行動。そんな彼めがけ刃が迫るが、シャロとアイリスがそれを許さない。
「ここは私たちが止める……!」
アイリスは自身の血液を凝固させ、血の盾を作り出し曲剣を弾く。腕力で言えば体の大きいエキドナに軍配が上がるが、アイリスは自身の目と技量でそれを補った。
ドンピシャのタイミングと角度で剣を弾いたことで剣の軌道は逸れ、ルイシャの横を通り抜ける。
そしてもう一本の襲い来る曲剣には、シャロが対処する。
「通しはしない! 桜花護盾!」
シャロは腕に嵌めた腕輪の力を開放し、五枚の桜の花弁の形をした大きな盾を出現させる。
その腕輪は勇者オーガとその子孫しか使うことができない代わりに破格の性能を持っている。美しい花弁の盾はエキドナの一撃を正面から受け止め、防いでみせた。
「この盾は……」
シャロの生み出した盾を見て、エキドナの動きが鈍る。
それを見たシャロはルイシャに発破をかける。
「今よルイ! 行きなさい!」
「うん!」
ルイシャは地面を思い切り蹴り、エキドナに接近する。
女性になり筋力が落ちている影響で、いつもより速度は遅い。しかしエキドナの動きが鈍ったこともあり隙を突くことに成功する。
「竜王剣っ!」
黄金の剣を右手に持ち、斬りつける。
エキドナの視線は以前シャロの方を向いている。
これなら避けることはできない……そう思われたが、なんとエキドナはルイシャの方を一顧だにしないままその一撃を回避する。
「な……っ!?」
驚愕するルイシャ。
彼はその後も何度も斬りかかるが、それら全ては最初と同じように見ることもなく避けられてしまう。
まるで後頭部に目があるみたいだ。ルイシャはそう思った。
「ふふ、不思議か? 避けられてしまうのが」
「そうですね……気配は消しているつもりなんですが」
「確かに殺気の消し方はたいしたものだ。しかし全ては無駄なこと『未来を視ることができる』私の前ではな」
「未来が……視える……!?」
エキドナの言葉にルイシャは驚愕する。
確かに未来を視ることができるのであれば、動きを見ずに攻撃をかわすことができる。だけどそんな力、あまりに反則だとルイシャは心の中で毒づく。
「そういえば前にベンが言ってた……蛇人族は未来を視る力があるらしいって。まさかあれが本当だったなんて」
「他の蛇人族は視れて数秒先であるが、蛇王である私には遥か未来まで見通す力がある。当然お前たちが里に来ることも知っていた」
エキドナはニィ、と口角を上げると二振りの曲剣を構える。
「そして視た未来ではお前たちは私に敗れ……死んだ。未来を変えることがお前たちにできるか?」