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第9話 濃霧の襲撃者

「やああああっ!!」

『ジュラアッ!!』


 向かってくるルイシャを見た大蛇は、大きくな口を開き襲いかかってくる。

 大蛇はその体の大きさに見合わぬ俊敏さを持っていた。まるで地面の上を滑るように移動し、噛みついてくる。


 ルイシャは大蛇をギリギリまで引きつけてから、跳躍し回避する。そして隙を晒した大蛇の胴体を殴りつける。だが、


「い゛っ!?」


 大蛇を吹き飛ばすつもりで殴ったが、大蛇の体はベコ! とへこむにとどまる。女性の体になったせいでルイシャの筋力は著しく落ちていた。

 殴られた大蛇はよほど痛かったのか『ジュアァ!!』と怒った様子でルイシャに噛みついてくる。


「危ない!」


 するとすんでのところでシャロがやって来て、手に持った勇者の剣で大蛇の首を切り落とす。大蛇の生命力は凄まじく、首を切られても少しの間動くが、やがて『ジャ、ア……』と鳴きながら息絶える。


「ちょっとルイ! 大丈夫!?」

「ご、ごめん。思ったより力が出なくて」

「そっか、体が変わってるから……。本調子じゃないなら引っ込んでてもいいのよ。こんな蛇くらい私たちだけで大丈夫だし」

「ありがとう。でも僕もやるよ。早くこの体にも慣れなきゃいけないしね」


 ルイシャはそう言うと違う大蛇の前に行く。

 するとその大蛇はすぐにルイシャに狙いを定め襲いかかってくる。


『ジャアア!!』

「この体になって筋力は落ちている……だけど体の柔軟性・・・は上がっている。それを活かすんだ!」


 ルイシャは大蛇を見据え、両手を前に構える。


「気功術守式六ノ型、柳々《りゅうりゅう》」


 ルイシャは相手の力の流れをそらし、その突進の向きをずらす。男性の体よりも筋肉が柔らかくなったことで、やわらの技のキレはいつもより上がっていた。

 突進をいなすことに成功したルイシャは、相手の勢いを利用し、更に技を続ける。


「からの……攻式六ノ型、霞投かすみなげ!」


 まるでかすみを投げるかのように、ルイシャは相手をつかまずに投げる。

 相手の勢いを利用し、最低限しか相手の体を触れない霞投げは一度発動かけられると抜け出すことは不可能。大蛇はなにが起きているかも分からないまま、顔面から地面に叩きつけられる。


「よし……これならいける!」


 新たな戦闘方法に手応えを感じるルイシャ。

 これなら自分より力の強い相手でも互角以上に戦うことができる。


「よし、やるぞ!」


 自信を得たルイシャは、勢いよく大蛇たちに突っ込んでいくのだった。


◇ ◇ ◇


「これで……終わりだ!」


 ルイシャは大蛇を投げ飛ばし、近くの木に激突させる。

 頭を強く打った大蛇は気を失い、その場に倒れる。これで襲ってきた大蛇は全て撃退することができた。

 ようやく訪れた平穏にルイシャは「ふう」と一息つく。


「みんな大丈夫?」

「ええ、問題ないわ。しぶとかったけど所詮蛇だし」

「私も大丈夫です。いい運動になりました」


 シャロもアイリスもけろっとした様子で答える。

 二人もルイシャと出会ってからそれなりに死線を潜り抜けている。この程度の戦闘で音を上げるほどやわではなかった。


 二人の無事を確認したルイシャは再び歩き出す。

 そして大蛇を倒して十分ほど奥に進むと……唐突に森の中に石像が現れる。


「わっ、なんだろうこれ?」

「下半身が蛇の人間……蛇人族ラミアの石像で間違いなさそうですね」

「うん。蛇人族ラミアの里が近いってことなのかな?」


 ルイシャは蛇人族ラミアの石像をまじまじと見る。

 石像の表面にはところどころこけが生えており、昔から置いてあることが伺える。


「ほんのり魔力を感じるけど、なにか魔法効果があるのかな? 特に体に異常は感じないけど」

「不気味だけど壊して蛇人族ラミアと敵対するのは避けたいわね。気になるけど行きましょうか」


 その像が気になりながら一行は奥に進む。

 すると突然……ぱっと視界が開け、彼らは森の中から平原に移動してしまう。


「え……!?」


 戸惑いながらも振り返ると、今までいたはずの森は遥か後方にあった。なにが起きたのか分からず、一行は困惑する。


「ど、どういうこと!? なにが起きたの!?」

転移ワープか、それとも今まで歩いたのは幻だったのか……どちらにしろ、強力な魔法だね」


 ルイシャは冷静に分析しながら、周囲を確認しようとする。すると、


「ようこそいらっしゃいました! ここまでお疲れでしたでしょう」

「……へ?」


 突然話しかけられ、そちらを見るとそこには下半身が蛇の女性がいた。

 赤い髪が特徴的な彼女は長い舌をチロ、と覗かせながら笑みを浮かべている。その顔に敵意のようなものは感じ取れない。


「あ、あなたは……?」

「私はこの里の案内役のルビイと申します。お客さんが来るのは久しぶりですので少々浮かれていますが、ご容赦ください!」

「は、はあ」


 敵意を向けられるどころか歓迎され、ルイシャたちは困惑する。

 まさかこんな風に迎え入れられるとは思ってもなかった。


「皆さまは観光でよろしかったですか?」

「そ、そうですね、はい」

「かしこまりました! ふんふん、悪人ではなさそうですし……おさも許してくれるでしょう! 我らの里にご案内しますね!」

「あの、その里というのはどこにあるんですか?」


 辺り一面は開けた平原であり、建物の類が見当たらない。

 もしかして地面の中にあるのか……と思っていると。


「私たち蛇人族ラミアは用心深くて、里は二重三重に秘匿してあるんですよ。私はそんな必要はないと思うんですけどね、ま、古いしきたりです」


 ルビーと名乗った蛇人族ラミアはルイシャたちにそう言いながら背を向けると、なにもない空間に向けてパチっと指を鳴らす。


 すると次の瞬間、空間が歪み、なにもない空間にいくつもの建物が出現する。

 ものの数秒でそこには大きな街が姿を現す。そこには何人もの蛇人族ラミアが生活していた。


「これは……!」

「はい。蛇人族ラミアの里『アルゴス』です! 久しぶりのお客さんなのでみんな喜びますよ! さ、行きましょー!」


 ルビーはるんるんと気分良さそうに中に入っていく。


「ど、どうすんの?」

「うーん……下手なことして目立ちたくないし、ついていくしかなさそうだね」


 突然のこと続きに戸惑いながらも、ルイシャたちは彼女の後を追い、アルゴスの中に入っていくのだった。

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